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「あ、まーーーーいっ」
目の前のサユミが、どこかで聞いたことのあるフレーズを叫んだ。
「う~ん、確かに甘いねー。
でも、このイチゴの酸味と、煉乳の甘さが何とも言えない味のハーモニーを奏で…」
「違ーうっ!
そっちじゃなくて。
あんたよあんた。
甘い、甘いのっ。甘いすぎるよチヒロは。
どうしてアイツらのこと、そんなに簡単に許しちゃおうとするワケ?」
「うう、そんなに甘甘 連呼しなくたっていいじゃない…」
サユミのキンキン声は、どうも耳についていけない。
特に、空調の効いた店舗で、氷を食べているとあってはなおさらだ。
私は今、新しいもの好きのサユミに誘われ、並木通りのかき氷専門店に来ている。
ちょうど1年前にオープンしたというこのお店は、天然氷を使った上質の氷で有名なんだそう。
私がオーダーしたのは、生イチゴのジャムに、たっぷり煉乳のかかったあまーい氷。
さっきまでは確かに“美味しいね”、“あんまり頭痛くなんないね”って、平和な話が続いてたのに。
私が一言、元カレの高本の名前を出した途端にもうこれだ。
昨晩の電話で散々愚痴を聞かせたせいか、彼女は、私に一日越しの怒りをぶつけてきた。
「大体さ、一番の問題は高本よ、高本。
チヒロがジュンちゃんの教育係だってこと、知ってたくせにさ?
折角女同士、旨くやってたところに、なんで爆弾投下するかなぁ?」
「あー…まあ、仕方ないよ。
高本とジュンちゃん会わせたのは私だし。
最近ケンカも多かったし、いずれこうなる運命だったんだよ」
シャリッ。
細かく砕かれた氷の歯触りと、ひやりとした頬の裏への感覚が、口の中で爽快に溶け合う。
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