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「大丈夫ですか?」
ひとりの小柄な女が俺の顔を覗き込んでいた。間違いない。この女だ。ふわりふわりと素晴らしい香りが俺の本能を刺激する。
「…血」
「へ?…ち?」
「血が…欲しい」
「…ブラッドですよね?」
「ん…ああ」
「どうぞ!」
女は急に俺に手を差し出した。俺は人差し指から香る麗しい血の匂いに耐えきれなかった。すぐに巻かれた絆創膏をくるくると剥がす。
…包丁で切ったのだろうか。まだ乾ききっていない傷口が姿を現した。ためらいなく口に入れる。
うまい。こんなにうまい血は初めてだ。俺は夢中になって血を吸う。本当は女の首筋に牙を立てたい。しかし、血を吸ったことによって生き返った俺の理性が全力で俺の体にブレーキをかけた。…これで、あと数時間は持つ。
「ありがとう」
俺はそう言って、颯爽と立ち上がった…つもりだった。くらりと視界が揺れて、気づけばまた倒れ込んでいた。
「な!だ、大丈夫なんですか??」
女はそう叫んだ。面白い人間だな。俺は微笑んだ。その途端、俺を闇が包み込んだ。
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