第三章 虹の神話

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「あのう、ぼく大丈夫です。たしかにすごく綺麗だったけど、戻って来たくなくなるほどじゃないし、最初から最後まで、ちゃんとこれは夢だってわかってたし」  無邪気を装ってそう言うと、トラハはぼくをにらみつけた。 「あんなぁ、今は夢の中で夢だと自覚できているかもしれないが、いつ『没入』状態になっちまうかわからないんだぜ。そうなったら強制的に離脱させることはできないんだ。いや、できなくはないが、脳に障害が残る危険性がある」  うん、たしかストロベリも、初めて会った時にそんなことを言ってた。 「でも、そのためのリミッターなんでしょう? 没入していても安全に離脱するための」  トラハが何を恐れているのかはわかる。「夢」に夢中になったぼくが、こっそり仮人形のリミッターを外してしまうことだ。たしかに、あの「夢」にはそれだけの魅力がある。人形館のクマのぬいぐるみでステルス侵入した陳腐な(と今ならわかる)「館ミステリー」とは全然違う。  でも、ぼくがねえさんを探すという目的を忘れて、「夢」そのものに没入してしまうなんてありえない。
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