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第一章 人形と狼
1
簡素なドアを押して中へ入ると、店先に漂っていた枯れ草のような匂いがむうっと濃くなった。
さほど広くない立飲み酒場のフロアは、客で溢れかえっていた。
ざわめきの後ろから微かに聞こえるレゲエ調の音楽。
気だるげに蠢く男女のあいだを、熱気と煙が埋めている。
そこにいる誰よりも低くて細いぼくは、他人の身体に触れないように気をつけながら、奥へ向かった。
「!」
カツンと、何かにつまづいた。
足元を見ると、ごろ寝している酔っ払いだった。
やけに硬い。筋肉バカか?
そうっとまたいで、前へ進む。
バーカウンターは頑丈そうな一枚板で、床や壁と同様に色褪せ、暗い照明に照らされていた。
その向こうで、山のような大男が、ぶっとい指で酒を作っていた。
サファリシャツにストライプのエプロンという、妙な格好だ。
ぼくがじっと見ているのに、まるきり無視して作業を続けている。
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