記憶は人を…

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よし。ここにするか。 僕は車を長いこと走らせて、小さな家の前で車を止めた。様々な生活音がその家からは漏れてくる。僕はネームプレートを首から下げて、ネクタイを整えると、消火器を片手にインターホンを押した。 ピンポーン。軽快な音がして数秒ののち、玄関の鍵を開ける音がした。 「どちら様でしょうか」 出てきたのは三十代くらいの女性。訝しげに僕のことを見る。そりゃそうだよな。僕は心の中で苦笑いをしつつ、精一杯の笑顔を見せた。 「お宅に、消火器は置いてあるでしょうか」 女性は意味がわからなかったようで数秒硬直していたが、僕が持っている消火器を見せるとああ、と頷いた。 「持っていませんが…あの、セールスはお断り…」 「いえ、今日は売りに来たわけではないんです。」 僕が遮るように言うと、女性は目を点にした。 「今、お一人でしょうか」 「いえ、主人がいますが…」 「大切な話ですので、同席していただけないでしょうか」 女性は確認してきますと言って、僕の前から去った。よし。これで追い払われることはないだろう。 数分後。 「お待たせしました。…そして、話というのは?」 夫の方が年上なのだろう、白髪混じりの髪が印象的だ。 「今、たくさんの放火事件が発生しています。弊社は防犯グッズの会社なのですが、試作品で作った消火器がたくさん倉庫に残っております。それを地域の皆さんにお配りするということを今やっております。」 自作のプリントを渡すと納得してくれたようだ。それで?と、僕に促す。 「こちら1つを、お渡しします」 僕はそう言って消火器を渡した。2人はなんの疑いもなくそれを受け取る。 「では、念のためですが使い方を確認させていただきます」 僕はそういうと、金具の外し方などをやってみせた。 「では、お二人もどうぞ」 そう言ってやるように促す。2人は真剣な顔つきで金具を外している…。僕はその隙にスーツに忍ばせた「アレ」を取り出した。 「そうそう。そんな感じです…」 会話を続けながらも、僕は機会を伺った。僕から完全に注意がそれた。今だ。僕は隠し持っていたスプレーを撒いた。数秒後、2人はその場に倒れこむ。色々加工した、僕特製の睡眠スプレーだ。スタンガンとかでもいいんだけど、痛そうだから嫌だ。今は痛みを与えたくない。辛いことに慣れてしまわれては、この後がつまらない。
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