菫色の人

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拝啓 先日、神社の桜も満開になり、いつもより少し遅めの春が来ました。とはいえ、寒い日もまだ多いですから、体調には気を付けてください。 桜の花が散りはじめた頃に花見をしました。私と花江、それに息子夫婦と孫の充で楽しい時を過ごしました。ここしばらく体調を崩しがちな私を気遣ってでしょう、自宅での花見でしたが、気分だけでもと充が私の寝床の周りにレジャーシートをしき、花江は随分なご馳走を重箱にいれて用意してくれました。まこのためにいなり寿司も用意してくれて、本当に良い妻や家族を持ったものです。酒はさすがに飲ませてもらえませんでしたが、仕方ありませんね。 このようなことを書くべきか、相当悩みはしたのですが、書かねば後悔するだろうと思い、続けます。 最近はいつお迎えがくるか、といった心持ちです。具体的に何が駄目だとか、酷い病だということはありませんが、起き上がっていれる時間も日に日に短くなり、嗚呼、もうそろそろかと思うのであります。 どうか、私、武晴が亡くなっても花江と仲良くしてやってください。お願いするまでもないことかもしれません。しかし、花江は手紙を書きませんから、折角昔のように親しくして貰ったのが私のことによって疎遠になるのは残念でなりません。電話でも、年賀葉書でも、当然時折訪ねてくれるでも構いません。どうか、花江をよろしくお願いします。  それと、私が死んだ後には私のインクと万年筆を貰ってください。インクが固まらない程度に使ってくれるだけで構いません。それでも、私が知る中で小夜さんが一番
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