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彼らが正しくて、都会の人たちが間違ってるとかそういうのじゃなくて、その反対でももちろんなくて。ただ、自分と彼らは違っている。そう認識する。
女の子は相変わらず窓の外を楽しそうに見ていた。
バスは病院や、街中で数人を乗り降りさせて、僕の目的のバス停へとたどり着く。古いバッティングセンターの前に降ろされた僕は緩やかなエス字の坂道をのぼる。その上に祖母の家はあった。周りの畑が多少減ったりしてはいるものの、景色は昔のそれと大差ない。
僕は一つ深呼吸をして家の前の特に急な坂を上った。僕らが住んでいた頃は普段駐車場になっていた砂利の広場を通り、母親から預かっていた合鍵で玄関を開く。一歩、二歩。中に入って、さて、これだけ久しぶりなのにただいまというべきものなのか少し考えて
「おじゃましまーす」
結局大きめな声でそう言った。
「ただいまー!」
その後ろから無邪気な声がして、僕はあわてて振り返る。黄色いワンピースの少女がサンダルを脱ぎ捨てて勢いよく僕の脇を走り抜けていく。
いや、でも祖母は独り暮らしで、でもあの子はただいまって言って。最初に浮かんだ困惑をとりあえず追いやって、僕は扉を閉めると急いで靴を脱ぐ。スニーカーの紐が煩わしい。
入り口からすぐのところにある和室に少女の姿はない。その奥の祖母の寝室にも、入り口から右に入ったところの応接室にも少女は見当たらない。階段を上ったような音もしてなかったはずだ。僕は、応接室の先の部屋の襖を開く。
「あら……大きくなったねえ」
案の定そこにおばあちゃんはいる。けれど、少女の姿はない。
「あ、うん。すごく久しぶり。
えっとさ、変なこと聞くんだけど誰か来てない?」
「そうねえ。誰も。宅配便もまだ来てないわ」
僕は、ありがとうと残して一度部屋を出る。左手にあるのはキッチンで、やはりここにも少女はいない。けれど、歌が聞こえてきた。幼稚園なんかでよく歌うような童謡の類いだ。
その歌を辿ってついたのは手洗い場で、少女が歌を歌いながら手を洗っていた。
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