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「あの……」
あまりに堂々とした態度だったから、こっちの方がどうしていいかわからなくて、かけた声は小さなものだった。歌にかき消されたそれは届くはずもなくて、僕は改めて
「あの、ちょっといい?」
と聞き直さねばならなかった。けれど、それに気づいたのか気づいていないのか彼女はタオルにさっと手をあてて、僕のほうへ振り返り、するりと隙間を抜けて走っていった。あっという間だった。
僕は、その後彼女を探したが、その姿はどこかに消えてしまっていた。昔に比べかなりぼんやりとした祖母からの目撃情報もなかった。
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