さとがえり

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 ぼんやりと、夢の中にいるような感覚から抜け出し切らないままの僕の耳にみーちゃんの声が届いてくる。それは庭で遊んでいた時よりもしっかりとした発音で、ただ、やはりわずかにたどたどしく、どこか話すことに違和感を感じているような話し方で。 「--頃、人々がまだ自然を読むことに熱心だった頃のお話です。海と山の間。少し開けた辺りに神様が居りました。  神様は普段人々に干渉することはありませんでしたが、時折、酷い飢饉や干ばつが辺りを襲うとただ、静かに涙を流し、その翌年にはこの辺り一帯が豊作となりました。  ある時、龍がやって来ました。それは大きな龍で、その尾の辺りが揺れるだけで突風が吹き、声は山々を震わせました。  人々は、恐れ、祈りました。神様、神様どうか我等をお救いください。  神様は人々を憐れみました。  神様は山に人々を隠し、龍と対峙しました。  龍と神様の争いは三日三晩続きました。土地は抉れ、家々は崩れ去りました。  神様がその手に携えた刀を龍の眼に突き刺すと龍は地に落ちました。なおも暴れようとする龍を見て、神様は涙を流しました。龍はもう暴れようとはしません。けれど、このままここで龍が命を落とせば、土地が枯れることを神様は知っていました」
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