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五日目
「見て、四つ葉!」
そう言ったみーちゃんをちらりと見やれば、明らかに僕とは違う空間にクローバーを差し出していた。
大切そうに両手で握られたクローバーは確かに四つ葉で、それを見えない誰かに差し出しながらみーちゃんはあのね、あのねと嬉しそうに話を続ける。
「海斗と探したの。たくさんクローバーあったから」
時々、こんなことがある。みーちゃんは僕も周りの景色も無いみたいに、無邪気に語りだす。それはどうやってスイッチが入るのかわからないけれど、しばらくすると元のみーちゃんに戻る。
今日もきっと元に戻る。そう思った。思ったけれど、目が離せなくて、ああ、そうだ。この後。
「これを持っていけばおじいちゃん元気にな」
「みーちゃん!」
僕は咄嗟に名前を呼んでいた。
通りかかったランニング中のおじさんがこちらを訝しげに見ながら通りすぎていく。
病院へと足を向けていたみーちゃんはぱたりと立ち止まって
「どうしたの、そんな大きい声だして」
もう、いつものみーちゃんだった。
「ごめん、なんでもない」
僕は小さな声でそう言って、額から流れ落ちようとしていた汗を拭った。
しおんちゃんは幸運だって言っていたけれど、これは良くない。心臓の音が煩かった。みーちゃんは一体何者なんだろう。何を目的にしているんだろう。息を吸って吐く。とりあえず、確かめられそうなことだけでも確かめなくては。
「ちょっと、おばあちゃんの様子見て来ようか。そろそろ、検査終わってるかも」
「うん!」
僕は思案する。誰と連絡を取ろう。昔のボクを知っていて、小学校が違っていて。心当たりはないでもないけれど、連絡先が分からない人ばっかりだ。今でこそたくさんの連絡ツールを持つ僕だって最初っからそれを扱えたわけじゃない。いや、でも、梨乃ちゃんなら。僕は病院へと向かいながら急いで母さんに連絡を入れた。
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