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「今開けまーす」
と声がして、すぐに引き戸ががらがらと開かれる。
「あ、まこさん。ええと、そちらの人は? おばあちゃんにお客さんですか?」
顔を出した少年は小夜を見つけるとそう尋ねてくる。おそらく、充というのはこの子であろうと小夜は予想する。武晴がよくほめていた通り、随分しっかりとした少年に見える。
「はじめまして。高槻小夜と申します。武晴さんと花江さんの友人で……」
「あっ、高槻さん、本当に来てくれたんですね! ありがとうございます!」
小夜が続けるよりも早く少年が小夜の手を包み込むように握る。
「あ、ええと、僕は巌充です。手紙を出した」
慌てて小夜を見る表情は年相応の少年らしいものだ。小夜はそれを落ち着かせるようにと微笑んで見せる。昔は表情が怖いなどとからかわれたものだが、今ではくしゃっとした笑顔を作るのになれてしまっている。
「お手紙ありがとうございます。知らせがなければもっと長いこと武晴さんの亡くなったことに気づかなかったと思いますから、本当に感謝していますよ」
「とりあえず、中に入ってください。おばあちゃん呼んできます。あと、まこさん、お母さんがいなりずしを作ったので持って行ってくださいって」
充少年は急いでサンダルを脱いでそろえると、廊下を走っていった。屋内に上がると小夜は帽子をはずし、花柄のスカートの裾を軽くはたく。空気を吸い込めば入ってくるのは他所の家のにおいだ。靴を脱いで、ふと青年の方を見やれば、それに気づいたのか相変わらず感情の読み取れない顔を小夜の方へ向けてくる。
「武晴が亡くなってしばらく、彼らは彼ら自身の平穏を保つことに手いっぱいだった。充はよくここまで持ち直したと思う。武晴によくなついていたから心配していたのだけれど」
青年は淡々と言葉を発する。
「先ほどのやり取りを見る限り大丈夫だと思うけれど、どうか彼らを責めないでやって」
小夜が青年の態度と言葉に疑問を投げかける言葉を考えているうちに、駆け戻ってきた充少年から風呂包みを受け取った青年は玄関の戸を開いて外へ出ていってしまった。開けっ放しの戸の先で青年は山の方へと続く茂みの向こうへ姿を消した。
「ええと、さっきの人は……」
充少年は玄関の扉を閉めなおし、鍵をかける。
「まこさんは、まこさんです。この土地の守り神らしいけど、それ以上に一個人として、っていうとおかしいけれど、ずっと僕たちを気にかけてくれている……そう思います」
そう、と小夜は微笑んだ。
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