時の記念日

10/15
前へ
/702ページ
次へ
何人かが集まってきて騒然となり どうにか患者の手を緩めようと 騒げば騒ぐほどギュッと力が入る。 サキから昔聞いたことがある 介護の現場は患者からの暴力で 怪我をすることも少なくないらしい。 認知症の高齢者の中には いきなり若い時のように手が出たり 高齢でも体に問題が無ければ 特に男性の力は物凄いものだという。 里桜は痛さと怖さで 胸の鼓動が早くなっていって… そして、里桜の限界と 患者さんの強ばった体のことも思い 〝髪を切って下さいっ!〟 とお願いをしたと言った。 周りの人は 〝そんなことは...できない... 〟 と言ったらしいが 里桜はそうするしかないと判断をした。 里桜の髪は、 あの4年前に一度切ってからは 整えながらもずっと伸ばしていて 今はストレートのロングへア。 サラサラで茶色がかった綺麗な髪は 腰の少し上くらいまで長かった... 細くて直毛の髪は一本に 束ねると動くたびにキレイに揺れて パタパタと家事をする度に 一緒に揺れるのを見るのが好きだった。 〝切って下さいっ、一気にお願いしますっ!〟 と言った里桜の決意を汲んで 大きなハサミで患者の手を切らない ギリギリで本当に一気に切ってもらったと... その時の話をする里桜を 引き寄せてギューッと強く抱きしめた。 『里桜...、怖かったろ?ショックだっただろ... あぁ...、傍にいれなくてごめんな?』 何度も背中を擦り頭を撫でる。 『なんで...、絋は謝らないで?仕事中のことだもん。私が悪いんだよ...、看護師じゃないからって油断してた。きちんと上に一つにまとめていなかったから...』 髪を切られたときの 里桜の気持ちを思うとやりきれないーー。
/702ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2418人が本棚に入れています
本棚に追加