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姉の恋人が亡くなった。交通事故だった。
明るい人で、うちにも良く顔を出し馴染んでいた人の死に、俺も両親も心から悲しんだ。
でも将来を約束した恋人がある日突然いなくなったのだ。姉の悲しみ方はとてつもなく深く、暗かった。後追い自殺なども危惧し俺たちはここ数日、腫れ物に触るように彼女と接していた。
猫で癒されるなら三顧の礼をもって迎え入れてもいいくらいだ。
猫は姉によく懐いた。
日中の主な世話は専業主婦の母がするのに、姉が仕事から帰ってきたら一目散に飛んで行ってまとわりついている。それを見てミケの恩知らずとなじる母だが、宙に舞うミケの毛を目の敵にして隙あらばガムテープをペタペタ体に押し付けているので、逃げられるのも仕方ないかなとも思う。
猫の名前は『ミケ』とつけた。これも拾った初日に姉が決めた。
三毛猫なので問題なく見えるこの名前にも、誰もが深読みをしてしまう。
だって姉の亡くなった恋人は『三宅さん』といったからだ。
猫に三宅さんをへの想いをのせて可愛がる。定番の立ち直り方法は効果的で、最近姉は少し笑うようになってきた。それだけでもミケを飼った甲斐があるってもんだ。
そして確かに、ペットがいると家の雰囲気は明るくなる。モフモフは無条件で愛される存在なのだ。
ミケは最初ガリガリに痩せた薄汚い野良だったけど、ねだられるままにキャットフードをあげていれば肥えてくる。さすがに老齢なのはどうしようもないが、毛に艶も出て、スマホの待ち受け画面にするくらいには俺も可愛いがっていた。
それに彼女を誘うネタにもなる。
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