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「痛っ」
突然の痛みに原因を探れば、ミケが俺の足に爪を立て引っ掻いている。ズボンをめくればふくらはぎに現れる二本の線。血の玉がじわりと産まれくる。
「ミケッ!」
怒鳴って手で追い払う。とはいえ自分より小さい愛玩動物を叩く事はできないので、抑えた力で向こうに押しやった。なのにミケはそんな俺の手をガシっと掴んで、両足でガガガガと更に引っ掻いてきたのだ。
「痛ってーな、このバカ猫!!」
二度目で頭に来たから扱いも雑だ。手をぶんと払ってミケを外し、それから奴の腹をもって多少強い力で放り投げた。
ギャッと学習机の椅子にぶつかり短い悲鳴があがる。
「ミケ、大丈夫!?」
心配する言葉は飼い主の俺からではない。由紀は俺を突き飛ばしてベッドから降り、ミケのところへ駆けつけ抱っこする。
ニヤァーンと抱きかかえられたミケは、そのまま彼女の胸元に甘えてすりよった。
「投げるなんて信じられない!」
怒りの声をあげ睨みつけてくる由紀。ミケを雑に扱ったことにプラス、自分の興奮も絡めた真っ赤な顔で目尻には涙だ。
「コイツが引っ掻くからだろがっ!」
お楽しみを中断させられたイライラが怒り声となった。
由紀はミケを更にぎゅっと抱きしめて俺から距離を取る。そんなに力をこめたら嫌がるだろうに。だけどミケは更に丸まって由紀の胸に顔を埋める。
「カイト、私イヤだ。こんな風に……初めての……するの」
怒って拗ねて恥ずかしくて、その三つをミックスしたどうしようもない顔で抗議する由紀。
「別に、バラ色の思い出が欲しいわけじゃないけど、おうちの人いつ帰ってくるか分からなのに、なし崩し的にだなんて……ヤダ」
お互い未体験だから憧れもあるし夢も盛りやすい。それに焦る。
確かに母が帰ってくるか分からないっていうのは俺も引っかかっている。それに避妊具の用意もないし。『大丈夫じゃね?』で流そうとしたけど、由紀にしてみれば物言いを付けるべき状況だということは十分理解できる。
ミケに引っ掻かれて由紀に拗ねられて、俺も俺の一部もしゅんってなっている状況だから、これ以上強引には出られない。
ゴメンと、謝った。本当はメチャクチャ残念だけど。
「でもいつか絶対由紀とシたい」
すごく無理やり我慢した。エロを押し隠し、ギュッと抱きしめそう呟けば、耳元に小さく甘い声。
「あたしも、って言ったら軽蔑する?」
「する訳ないだろ!!」
余りの可愛らしさに由紀を抱きしめる手に力がこもる。もう手慣れたものになったキスで遊んでいたら玄関の開く音がした。
ただいまという母親の声に二人で苦笑しながら体を離す。
「ミケはエロ戦士カイトから私を守ってくれるナイトだね」
俺たちのすぐ横でスフィンクスのようになっていたミケは、自分の名前に反応し得意気にニャァーンと鳴いた。
この夏休みバイトしよう。
やっぱりさ、初エッチ決めるためのホテル代は自分の金で出さなきゃな。
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