三宅さんは語る

2/6
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ
 死ぬのって初めてだからどうしたらいいのか分からなくて。ドラマとかでよく見る、空が神々しく光って天使がくるみたいなシチュエーション待ってたんだけど全然さ。訳も分からずただ空中ぐるぐる回ってたのよ。  時間の感覚はないんだけど、そのうちなんとなく動きづらくなってきたんだ。可動範囲が狭まってくる感じ。じぶんが丸い球体の中にいて、その球体がだんだん小さくなっていく感じだよ。ついには身動き出来なくなって、事故現場の交差点から動けなくなったんだ。  マジか、俺もしかして地縛霊になったのかって自覚したら本気で悲しくなって泣いたね。  大の大人が人目も憚らず、といっても誰も俺のことなんて見えないんだけどさ、泣いたね大声で。うん、あんなに泣いたの子供の時以来だよ。泣いて喚いて叫んださ、「神様のバカヤロー!」って。  そしたらやってみるもんだわ。出てきたの、神が。 「うっせ、お前俺に喧嘩売るなんていい度胸だな」  神なんて、それこそ髪の毛真っ白の爺さん想像してたんだけど、やってきたのは「ちぃーす」とか言いそうな見た目チャラチャラの若いにーちゃんでさ、驚いたんだけどまあ仕事きちんとしてくれたら文句はないさな。 「うわーアンタいつ死んだの? 結構経ってんじゃん。もう固まってほぼ地縛霊状態か。ダメだよぅ、こうなる前にあの世行かなきゃ」  真面目な顔で諭してくるから、俺もよく分からないままスミマセンと答えようとしたその瞬間、奴は舌を出した。 「なーんてね、俺がちょっと寝坊したせいなんだけど。サーセン、迎えにくるの遅れちゃったぁ」  勿論キレたさ。 「お前、ふざけんなっコラァ!!」  そう掴みかかれば、あ、霊体だから何も触れなくなっていたんだけど神には触れたんだ。まあそれは置いておいて、神がそう怒るなよと指をパチンと鳴らした途端、俺にかかっていた圧力は無くなって体がスッと軽くなった。 「違法だけど遅刻したサービスで地縛霊化解いてやるよ。これで好きなところに飛んでいけるから。最後に大切な人の顔でも見て来れば?」  そう言われて、そこで初めてユリ子のこと思い出したんだ。  薄情だと思ったか? 本当だよな。真っ先にユリ子のこと思い出すべきなんだよ。だけど事故に遭ってからは自分の身の振り方でいっぱいいっぱいだったんだ。  ユリ子のことも、自分の両親のこともそこで初めて思い出した。  俺の愛する俺を愛してくれる人たち、どんなに悲しんでいるだろう。  急におたおたしだした俺をみて神は言う。 「目を閉じて念じたら、その人のところに飛べるよ」  随分なご都合主義だな、なんて笑う気は全くなかった。  念じたよ、ユリ子、俺の大切な人。  彼女は泣いていたよ。  遺体にとりすがって?  いいや、今夜通夜を行う式場の前で。俺の母親に門前払いをくらってさ。 「え、この状況ナニ?」と一緒に飛んで来た神が言う。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!