生々しいのを否定するな

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生々しいのを否定するな

 俺がチャックを見つけたのは、ミケがうちに来てから既に半年が過ぎた頃だった。  姉は少しずつ笑うようになったし、後追い自殺するのではという危惧もほとんどなくなっていた。    交通事故のニュースや三宅さんの月命日には顔が強ばるけど、そのたびにミケがニャオンと彼女に擦りより膝に登る。傍目では猫を抱っこしているように見えるが、三宅さんにしたら姉を抱きしめているのだろう。俺はお前の側にいるよと。  もちろん夜は姉の布団で一緒に眠る。 「猫になっての一番の利点はこれよ。毎日至近距離でユリ子の肌の匂いを嗅げることだな」 「ねーちゃんが変なプレイ受けてるみたいだ。聞きたくなかった」  三宅さんはチャックから抜け出しても天に召されないことを知って喜び、俺にすり寄ってくるようになった。端から見れば急にミケに懐かれたような図だ。  カイトなんか大して世話もしないのに、ミケの恩知らずと母親はまたなじってくる。  世話はしているんだよ母さん。  他の人には分からないだろうけど。  あれから何度も俺はミケのチャックを開けた。猫の皮を被っている間は、猫そのもののパーセンテージが高くミケ生活を楽しんでいるそうだが、やはりたまには素の自分に、そんな自分を知っている人間の前で息抜きしたいのだろう。
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