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姉の傷跡
三宅さんの秘密を知っているのは俺だけだった。
俺は何度も姉の前でミケのチャックを開けようと試みた。親の前だって、友達の前だって。最後はミケを三宅さんの実家近くに連れて行き、そこでもチャックを開けようと試みてみたのだ。
だけどそういうときはいつだってチャックは見つからず、諦めて俺の部屋に戻り一人になったとき初めて手に金具が触れるのだ。
思い切って姉に言ってみようかと議論にもなった。だが三宅さんは首を振る。
「カイトの頭が大丈夫かと心配されるだけだし、それにユリ子の前でチャックが見つからないのって、神のおぼしめしな気がするんだ」
それからと三宅さんは付け足す。
「もう時間もないし。今更分かっても余計に寂しくさせるだけだろう」
それが分かっているから俺も、どうにかしたいのだ。
三宅さんのチャックを見つけてから三カ月、うちに来てからもう九ヶ月、一年のおまけという神の言葉が正しいなら、あと三ヶ月しか彼に残された時間はなかった。
俺の顔がいつもと違ったのだろう。大丈夫だと三宅さんは気を使って笑う。
「まだ三ヶ月もあるんだ。楽しむさ。カイトが大人になるところも見届けなきゃならんしな」
「傷に塩塗るなよな。邪魔したくせに」
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