三宅さんは語る

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三宅さんは語る

 交通事故にあったんだ。自転車でトラックにはね飛ばされた。痛みより先に、あっ俺死んだわって分かるくらい激しい衝撃だった。  程なくしてなんだか体が軽いと思ったら空中に浮かんでいて、下を見下ろすと事故現場。たくさんの人だかりに前方がちょっとひしゃげたトラック、グチャグチャに曲がった自転車、そして有り得ない形になっている自分の体が見えた。  俺って今霊体かよって焦ったけれど、下にある体に戻ってもどうにもならなさそうだし、戻り方だって分からないし、第一戻っても痛そうだしで、その体は放棄する事に決めたんだ。 「やっぱり淋しかったけどな。なんせ三十年近く一緒に過ごした体だから」  三宅さんはしんみり語る。  経験のない俺はそうだねなんて相づちは打てない。軽すぎるよな。  まあそれで体は諦めたさ。事故現場も警察やら救急車やら来てざわついていたけど、ほどなく片付いてまたいつもどおりの道路になったしな。いやぁ奴らいい仕事するな。カイト、お前まだ将来の職業決まってないだろ、俺の代わりに警察か消防隊員になって恩返ししてくれよ。 「やだよ」  人間っていうのはどんな状況に置かれてもなんだかんだ順応していくもんだ。最初は警戒していたが、霊体でこそあれ相手はいつもの調子の三宅さんで、俺に危害を加える風でもないことにすっかり安心してしまっていた。  今はキッチンからコーラとポテチを持ってきて、寛ぎながら拝聴している。  ちなみに三宅さんにも勧めたけれど、霊体の時は食べられないらしい。猫の皮に入った時だけ食物を口にできるが、借りている体に必要な食べ物、つまりは猫エサで十分だそうだ。 「それで、その猫の皮はどうしたんだよ」
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