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嫉妬
「俺、お前の絵すごい好き」
そういって私の隣に座っていた彼は真っ白な歯を見せて笑った。
私は唖然として何も言えなかった。
持っていた絵筆を落としそうになったので慌てて指先に力を入れる。
彼の声はしんと静まり返ってた教室によく響き、周りに座っていたクラスメイト達もあまりの衝撃で顔を上げていた。
前から彼のことは好きではなかったけれどそれは嫌悪へと変わり怒りの対象になった。
私に対しての絵の称賛は侮辱と同じだ。
でも彼はそんなこと考えてもいないだろうし、自分が向ける言葉が誰に対しても矢になることは想像もしていない。
一緒に過ごしてきた教室で彼の様子を見ても、とても素直な、透き通った目と心の持ち主だとは私自身がわかっている。
わかっているのだけれど、ただ彼の才能に対しては嫉妬しないではいられない。
真っ白な画用紙が今は色鮮やかな砂浜に。
彼が見た景色がそのまま投影されているのではないのかというほど鮮明で儚くて美しい絵がある。
なぜ、こんなにも生きているのか。
私の目の前にはどす黒い色をした濃紺の海と、茶色が濃すぎる砂浜。
先生ですら無理やり笑顔を作って「味がある」といっただけなのに、彼はなぜこんな絵を好きになれるのか私にはわからない。
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