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『いーんじゃん?』
電話越しの彼女が放ったその言葉に、肩透かしを食らった。
『自分をよくわかってくれてる幼なじみがそう言ってるんだし』
「委ねてみなよ」と、中学時代からの親友である恭子は、航大との関係を勧める。
『急に電話してきて何事かと思ったら……』
承諾したものの不安になった私は、航大が帰った後、思わず電話をかけてしまった。
「けど、やっぱわけわかんなくない? 受け入れた私も私だけど!」
『まあ、確かに言ってることもしてることもめちゃくちゃだね』
「でしょ?」
『でもさ、なんたってイケメンじゃん? 彼』
「お母さんと同じこと言うね」
学校の女子にも人気あるみたいだし、あの顔立ちは整ったものとして認知されているのだと改めて思った。
『いや、あの顔はマジで国宝級だから。女子の一般論として、いつでも拝める距離にいるとか羨ましすぎる』
「中身がガキなのは置いといて」という付け足しに苦笑した。
『てかさ、軽くスルーしかけてたんだけど』
「何?」
『七波、恋愛経験ゼロでしょ?』
私には深刻な問題があった。それは、生まれてこの方、誰ともお付き合いしたことがないということ。
誰かに恋愛感情を抱いたこともなく、もちろん告白なんてされたこともない。そんなこんなで、気づけば十六年もの月日が経ってしまっていた。
『いい経験じゃん。しかも相手はイケメンの幼なじみっていう漫画みたいな展開だし』
「でも夏休み限定の茶番カップルだよ?」
『別にそれでもいいんじゃない? 彼氏は彼氏なんだから』
恭子の意見は到底曲がりそうにない。
『この際いろいろ学ばせてもらえば?』
「学ぶって何を」
『キスとか』
「キッ……?」と変な声が出た。
「えっ、あ、あの航大と?」
はっきり言って、ない。想像もつかない。
幼なじみ以上には思えないだろうし、正直この関係も友達とちょっと遊ぶくらいの感覚でいる。
『いや、どの青羽くんか知らないけど。でもあたしと違って、何も言わなかったんでしょ? あんたの恋愛経験値のこと』
「……うん」
今まで一度も、馬鹿にされたりからかわれたり、そもそも話題にしてきたことがなかった。
『いい男じゃん』
「その点ではね」
『素直じゃないなあ』
「そんな簡単なものじゃないんですー」
今の今まで、本当にただの幼なじみだったのだから。
『まあ、いいや。さっそく明日、デートすることになったんでしょ? とりあえず楽しんできなよ』
「うん、そうする」
『じゃあね』
「うん、ありがと。おやすみ」
電話を切った後、深呼吸なのか溜息なのか、よくわからない息を吐いた。
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