七月二十七日(土)

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 プールから上がった航大は、私たちが荷物を置いているレジャーシートとは別の方向へと歩き出す。 「どこ行くの?」  私の質問に振り返ると、「売店」とまた単語だけで答えて再び歩を進める。 「そっか……」  そんな呟きが届くわけもない。航大の足元は止まらず、ただ背中が遠ざかっていく。  私、今日おかしい。  あれだけただの幼なじみと思っていたのに。  航大の顔を見ると、苦しい。  本当に夏バテみたいな、プールに溺れてしまったみたいな苦しみが。  鎖骨にキ……、口をつけてしまったから? 「どした?」  下から覗かれ、苦しくなる。同時にどきっとした。おかしい。明らかに変だ。 「別に」 「なんだよ。つーかそれ、昔流行ったよな」  私が苦しんでいることなんかお構いなしに、ケタケタと笑っている。  そりゃそうか。人の心なんて、気持ちなんて、わかるわけないもの。私自身もわかっていないのに。  でも一つだけ、わかるのは。 「お前が言っても違和感しかねえわ。似合わねー」  これだけ笑われているのに、傷つかない。ムカつかない。むしろ愛おしい、と思う。可愛い、とも思う。言ったら絶対にキレられるけれど。 「なんで」 「あ?」 「なんで戻ってきたの? 売店行くんでしょ?」  自分の変化に、気持ちに、気づきたくなかった。気づいたところで、待っているのは終わりだけ。 「お前が急に立ち止まったからに決まってんだろ」  心臓をぐっと掴まれたかのような痛み。苦しい。けれど、辛くない。 「心配して?」 「当たり前だろ。今日おかしいし、お前」 「暑いからね」  適当な理由を付けて返す私に、「なんなんだよ」と呆れて笑う。 「お昼、食べよっか」 「売店行こうとしてたけどな」 「じゃなくて」 「は?」 「お弁当、作ってきたから」 「えっ、マジで?」 「あまり美味しくないけど」 「食う前に言うなよ」  気づくわけにはいかない。ずっと、そばにいるためには。
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