東京赤ずきん

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 私はいずれ、あの教室に帰らないといけないらしい。  そんなことを思いながら、今朝あった情報番組の特集を思い出す。それは引きこもりや不登校といったドロップアウトした人間の特集だった。  番組の出演者の一人が不登校を学校へ行きたくても行けない人と言って喝采を浴びていた。  私はそのことを思い出して悲しみながら、今トイレの個室で制服から赤いパーカーに着替えている。  着替え終えてトイレから出ると、若い男が待っていた。 「今日は遅かったな。赤ずきん」  赤ずきんというのは私の赤いパーカーからきた彼が勝手につけたあだ名だ。  いつものように彼に百円玉を渡す。私の兄の振りをして、学校へ連絡してもらうために。  電話をかけ終えると、彼は私にさっきの百円玉を渡した。  それは別に私に返したってことじゃない。私が彼を百円で買ったように彼は私を買った。私はいつも彼に日が落ちるまでの時間を買われている。  彼は便利屋兼転売屋だ。私は彼の手伝いをしている。  今のところ、私は便利屋しかしたことがない。多分、転売屋の仕事は彼一人でやった方が簡単なのだろう。  今日最初の仕事は草むしりだ。ここはお婆さんたちが共同に管理している小さな農園でいつもは当番制で草むしりをしているのだが、一人が骨折して入院することになったそうだ。  太陽の下、私たちは黙々と草をむしっていく。  こういう狭い農園はなかなか手を抜けない。広い農園だとチェックしきれないので多少手を抜いてもバレないけれど、狭いと隅々まで見ることが出来る。  結構大変なのだけど、恐らくこの仕事は二人で千円くらいの報酬だと思う。今日まで色々と仕事をこなしたせいか、なんとなく報酬が肌で感じてわかるようになっていた。  彼は仕事の内容じゃなくて依頼人から報酬の金額を決めている。持っている人間からとことん取るが、そうじゃない人間からはあまり取らない。明らかに持ってない人間は自分で値切りして格安で仕事を引き受ける。五千円で依頼されていたゴミ屋敷の掃除を六十円で引き受けたこともあった。  こういうの良くないじゃないかと訴えたら、彼に鼻で笑われた。『自分の価値を自分で決めて売って、何が悪い』と。『文句を言う外野は決して俺たちの仕事をしようとしないからな。やれと言っても理由を付けて断るから、気にするだけ無駄。その分、稼げ』と居直られた。  まあ、でも、これ以上私は何も言わない。私は働き次第でプラスαあるとはいえ彼に百円で買われているし、私自身彼を格安で買っている。
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