東京赤ずきん

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 あのとき、私は学校の休み方がわからなくて公園で途方に暮れていた。彼が自分自身を売り込んでこなかったら、多分私は死んでいたと思う。  草むしりは三時間ほどで終わった。私の予想通り、お婆さんは財布から千円札を彼に渡す。  ただ、少し予想と違って、おまけで冷えたお茶のペットボトル二本もくれた。  肉体労働のあとの水分補給は格別だ。報酬の金額は決して高いとはいえないけど、満足感は確かにあった。  次の仕事場は有名な電気街だ。電車に揺られながら、次は転売屋の仕事だと彼に聞かされた。少し戸惑ったけど、好奇心の方が強くて二つ返事でやることにした。  提示された報酬は三十万で、折半して二十五万の仕事だと彼は笑いながら言う。さすがにそれは計算がおかしいと私は彼に突っ込んだ。 「ああ、それは手に入れた品物を二十万で売り付ける予定。ほら、安く買ったものを高く売るのは商売の基本だし、三十万は諸々の依頼人の代わりに買いに行く費用、労働費だから」  彼はケラケラと笑いながらそう話す。依頼人はよほどの金持ちで、彼にとってかなり商売しやすい相手なのだろう。  私は一人、家電量販店の中の待機列に並ぶことになっている。彼は別に仕事があるらしい。  そこで二時に売り出し予定の懐かしの女児アニメの数量限定のフィギュアを手に入れるのが今回の私の仕事だ。  その懐かしの女児アニメのことを私は知らない。名前だけは聞いたことがある。  彼からは作品のタイトルと主要キャラクターの名前を覚えろと言われた。言えなかったら売ってもらえない可能性もあるらしい。  あとは言えなかったときの奥の手で深刻な顔で『親がファンで喜ばせたくて買いにきた』と言う演技の練習をしろとも言われた。私は携帯の画面を睨んで、必死にタイトルとキャラクターの名前を覚えている。  電気街の駅に着いてすぐに私たちは別れた。仕事が終わったら、家電量販店の近くにあるハンバーガー屋で落ち合う予定だ。  目的の家電量販店の待機列にはもうすでに十何人くらいの人が並んでいた。彼らがマニアなのか同じ転売屋かわからない。  私は彼らの後ろに並んで、売り出されるのを待つ。早すぎるけれど、これは仕事だ。ミスをしたら、どうなるかわからない。  待っている間、携帯と道行く人々を見比べる。さすがに制服を着た人間はいない。そのことに少しほっとする。  案外、制服じゃないと誰も私を学生だとは思わないようだ。その事実が私にとって堪らなく嬉しい。心を楽にさせる。  誰かが私の後ろに並び、その誰かの後ろをまた別の誰かが並ぶ。そう時間は経っていないのに、列はじわじわと長くなっている。
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