東京赤ずきん

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 このくらいから並ぶのが確かに正解かもしれない。  今のところ、私の感覚では草むしりより楽だ。  でも、この仕事の方が報酬が高い。一回、仕事の報酬の差について彼に聞いてみたら『この仕事は俺たちの苦労じゃなくて、提供するものの価値や満足度で金額で決まる』と言っていた。  そして、その価値自体も『依頼人の収入次第で満足度は同じでも金額が変わる』と。  私の初めての転売屋の仕事は滞りなく終わった。性別のおかげなのか、特に質問されることなく目的の品物を買うことが出来た。  今、ハンバーガー屋でその品物を渡したところだ。二万円で手に入れたこれが二十万に化けるなんて、いまいち実感がない。  とりあえず、私は彼の隣に座る。  すると、彼は「何か奢ってやろうか?」と上機嫌に言ったけれど、私はそれどころじゃなかった。  もう学校の時間が終わったのか、このハンバーガー屋は学生が多い。制服姿の人間が目に付く。気分が悪い。居心地が悪い。早く帰りたい。 「――赤ずきん?」  彼が私のことを呼ぶ。 「あっ、うん。その、今日の仕事はこれだけなのかなって……」  内心、藁にすがる思いでそう聞いた。 「これだけって。結構な大仕事だったじゃん」  だけど、彼はあっさりと「今日はこれで終わり」と告げた。 「だから、食え食え。奢るからさ」 「いや、いい。食欲ないから」  私の手短な返答に彼は心底面白くなさそうな顔をして照り焼きバーガーを頬張る。  この感覚は久しぶりだ。今まで彼の仕事の手伝いで学生と会うことは滅多になかった。  私は制服を着た人間が心底、苦手なようだ。正確に言うと、制服の集団を見ると気持ちが悪くなる。  制服は学生の象徴――普通の人間の象徴だと思う。ちゃんと周りに合わせられる、浮かない人間の象徴だ。  だから、それを見ると、どんなにちゃんと制服を着ようとも周りの顔色を伺って取り繕うとしても、結局浮いてしまう自分をどうしても思い出してしまう。校則に少し引っ掛かる制服の着方をした人間の方がちゃんと制服を着こなしている。 「赤ずきん、さっきから大丈夫か?」  彼が心配そうに私を覗き込む。――そういえば、彼は私の名前を知っているのに私を赤ずきんと呼ぶのだろう。  赤ずきんの物語は寄り道をした赤ずきんが狼に食べられるお話だ。そのあと猟師から助けられて寄り道をしたことを反省して、ちゃんと言い付け通りに生きようと考えを改めるお話でもある。  確かに今の私は寄り道をしている赤ずきんかもしれない。だとすると、彼は寄り道するように唆す悪い狼だろうか。
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