第参話

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 アシュリーとカツラが女性の年齢という世界の闇を垣間見ていた頃、彼らの弟子であり妹であるサラは、【宮】の中を迷っていた。  異母兄であるカツラによって、護衛のために寄越されたサクヤとアカネから、隙を見て逃げ出し、必死に撒いているうちに―強靭な肉体を持つ竜族である彼らの体力は、魔族の中でも貧弱な部類に入るサラにとっては化物並みだった―道がわからなくなってしまった。サラは、ふうとため息をついた。あの二人には悪いが、ひっつき虫よろしく、サラの周りをうろつかれると、アシュリーから頼まれた仕事ができなくなってしまうのだ。サラにとってアシュリーの言は絶対であるし、何より重要機密も多い。故意でなくとも邪魔をしてくる二人は、正直サラにとって悩みの種だった。  とりあえず撒けてよかった、とサラは少しだけ胸を撫で下ろしたのであった。  「それにしても、ずいぶん長い廊下だなあ。」  古い石を積み上げられて造られた壁に沿って歩きながら、サラは何ともなしに呟いた。しかし、この周囲には誰もいないのか、サラの思ったより響いた呟きに返してくれる者は誰もいない。延々と続く、長い廊下にげんなりとしつつも、歩くのを止めないサラは、ふと、ざらざらとしている壁に手を触れた。  ガコンッ。  サラの手が触れた場所が、音を立ててガクッとへこむ。何が起こったのか分からずに、バランスを崩したサラが壁の方へ思わず体を寄せると、そこに突然、ぽっかりとした大きな穴が開き、そのままサラはすっぽりと黒々とした穴の中へ吸い込まれた。  「……っ!?痛……。」  うまく受け身が取れず、ベシャリと顔から倒れ込み、頭をしこたま打ち付けたサラは、くるくると頭部の周囲に煌びやかな星を回しながらも、ゆっくりと起き上がる。頭がぐらぐらとして、目がちかちかする。  「あれ?誰か入ってきたの?ねえ、どこの人?」  サラは、なるべく頭を動かさないように配慮しながら、そろそろと顔を上げた。  サラが意図せずに入ってしまった部屋の中央には、幾多の配線に繋がれた巨大な機械が、低くうなり声を上げながら鎮座していた。部屋は縦に長く伸び、中央の巨大な機械もそれに合わせて天へと真っ直ぐに伸びている。その中央の機械の前には、ずっしりとしたふかふかの赤いソファが置かれていた。  そこに、誰か座っている。  誰かじゃない、とサラは思い直した。サラは、この部屋の主を知っている。知っているからこそ、恐れ多くて、サラは言葉を口にすることが出来なかった。  萌黄色の長い髪。銀の瞳。黒いキャミソールのようなワンピースは短いようで、「彼女」の太ももの付け根までをぎりぎりまで見せていた。病的なほど真っ白い肌は雪のようだ。それらを視界に入れたサラは、まるで生き物のようには思えなかったそれに、ごくりと唾を飲み込んだ。  「あ、こういうときはまず自己紹介だよな。」  呆然とするサラに向かって、ソファに埋もれるようにして座っていた少女はこてりと首を傾げた。そして、何も言わずに少女を凝視しながら座り込んでいるサラに、にこりと笑いながら自らの名を述べる。 「僕、【黒い卵】。君は、なんていう名前なの?」
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