第参話

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第参話

 アシュリーは走っていた。  体は小さくなっている。身体年齢で推測すると、九歳程だろうか。妙に冷静な自身がそう判断を下しつつも、アシュリーの小さな身体は走ることを止めなかった。  心臓はばくばくと音を立てて苦しいし、呼吸はひきつる。顔中が、汗と、その他の体液―これは涙だろうか―でぐしゃぐしゃになりながらも、走る、走る、走る。まるで、「何か」から逃げているようだ、と冷静な部分のアシュリーは考えて、そしてはっとした。すると、小さなアシュリーの顔は意識に反して、ゆっくりと口元に笑みを模った。だめだ、と叫ぼうとするものの、アシュリーの身体は言うことを聞かない。目前に迫る扉のドアノブを、小さな手がひっつかみ、そのままの勢いでガッと扉を強い力で開けた。  「駄目だ!」 アシュリーの意識が、叫ぶ。  「その中を見てしまったら……。」  そして、小さなアシュリーの眼前に広がったものは―。
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