第参話

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 「師匠!!!」  はっとアシュリーは目を見開いた。ばくばくと心臓が嫌な音を立てている。冷や汗が体中を滴るほど噴き出していて、気持ちが悪い。アシュリーは冷たく冷える体の感触に、思わず顔を顰めた。そして。  「……っ!!? サラ、顔が近い近い!!! 近いぞ!!!」  開けた視界一面に広がったのは、サラの人形のように整った小ぶりな顔だった。彼女の美しい黒髪が、カーテンのようにアシュリーの青白い顔に、被さるようにして広がっている。  何故このような状況になっているのか見当もつかないアシュリーは、目を白黒とさせながら自身の弟子を見上げていると、不意に紫色の瞳がじわり、と潤みはじめて、アシュリーは柄にもなく焦った。  「サ、サラ? どうした?」 「……よかったです、師匠の、目が覚めて。覚めなかったら、私はカツラ卿を殺しに行くところでした。」  表情を変えぬまま、涙をぽろぽろと零すサラをアシュリーは器用だと思いつつ、同時にとても申し訳なく思った。そっと重たい腕を伸ばし、頭を優しくなでてやると、サラはそのままぽすりとアシュリーの胸へと顔をうずめた。一瞬、ビクリとアシュリーは体全体を跳ねさせるが、愛弟子の肩が異様なほど震えていることを確認すると、静かに体から力を抜いた。  「いやいや待て待て。サラ! 今、お前さらりと閣下殺害宣言してたじゃねーか! 大人しい顔して何恐ろしいこと言ってんの!?」 「うんうん、サクヤ、落ち着いてね! 私の方からサラには言っておくから、ちょっと今だけ大人しくしてて! ね?」 「そうよ! 確かに聞き捨てならない台詞だけれど、今はスルーしてやるのが私たちの役目でしょ!?」 「うるさい、ゴリラ!! マリアージュ卿もお放しください!」  アシュリーはサラの頭を撫でながら、ゆっくりと首を回す。そして、少し離れたところで取っ組み合いのような状態になっている三人組の姿を視界に入れた。  「お師匠様と……【軍部】?」  アシュリーが眉根を寄せて呟くと、三人組―アンナ、アカネ、サクヤは気まずげにアシュリーとサラを見て、にこっと愛想笑いをした。
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