3人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
第一話
清らかな鈴の音が、大理石でかたどられた大きな広間いっぱいに響き渡る。
豪奢な服に身を包んだもの、質素な軍服に身を包んだもの、様々な形をした群衆が息をひそめ、静かに見上げる先には、この国で最も高貴な色とされる美しい紫色に染め上げられ、まばゆく輝く金色で縁取られた牛車が鎮座していた。
牛車の左右に控えていた少女のうち、群衆から見て右側の小柄な少女が、すい、と前へ歩み出る。少女の小さな手のひらには、白銀色のバッジが人工灯の光を浴びて輝いていた。
少女は牛車から少し離れたところで跪きうつむく青年の目の前で歩みを止めると、顔を上げるように合図を送った。少女の合図に沿って青年が顔を上げると、黄金色の髪がさらさらと流れ落ち、エメラルド色の意志の強そうな瞳が現れる。少女はふっとぬばたま色の髪の毛を左耳にかけると、持っていたバッジを、青年の胸元に付けた。
「今日から貴方が、【政党】を率いて【臣民】と【帝】のために、より良い国を創っていく存在のひとり……【総裁】になるのよ。」
シャン、シャン、と鳴り響く鈴の音に負けそうなほど小さな声であるのに、いやに耳にこびりつくような威圧のある声色で、少女は青年に告げた。
「貴方の汚名は、【帝】の汚名。全ては、【帝】のお心のままに。……心してかかりなさい。」
青年は、少女の底冷えするような視線を真っ向から受けて、瞳の中に強い意志を燃やしたまま、ゆっくりと頷いた。
最初のコメントを投稿しよう!