小麦粉工場

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爆音が止むとカラオケのCMで流れてくるような曲が頭に入ってきた。今まで我を忘れて踊っていたが、僕は何故か興ざめして打ち上げに参加せずさっさとライブハウスから出ていってしまった。 居心地が悪い。 野球の試合があったからか駅のホームにはブルーのユニフォームを来た人が大勢いた。白いシャツを着た僕は、海に浮かぶゴミ袋のようだ。 ここも居心地が悪い。 地元に着き、いつも行く居酒屋に入ろうとしたが、酔いつぶれた大学生が店の前で吐いてるのを見て、コンビニで買ったほうが財布に優しいなと冷静になってしまった。 そこらじゅうで酔いつぶれてる人。そうか、今日は金曜日か。 帰宅、汗を吸ったシャツのまま布団にねころがる。なんだか自分の家じゃないみたいだ。おかしい感覚。ここは僕の家なのに居心地が悪い。 酒を飲む前にとりあえず一服しようと思い、窓を開けた。 春になると僕を苦しめる黒い杉の森、ぽつんとある街灯。 この黒とオレンジのコントラストが好きだ。色の境目を見ていると吸い込まれる感覚に陥る。このまま曖昧な光の中を泳いでいたい。 なんだか酒を飲む気分じゃなくなってきて、タバコを持つ指をずっと見ていた。 突然友人が言っていた「人生は不確実だから楽しいんだよ」という格言を思い出した。 確かにそうだが、安定している上で不確実だから楽しいんだと性格が複雑骨折してる僕はぼーっと考える。 じゃあ僕は何が不安定なのか、少し冷静になった。 薄給だが定職にはついている。上司だって優しい(厳しい時はあるけど)。恋人だっている。ここまで育ててくれた両親だって元気だ。住む場所だって悪くは無い。何がダメなのか? 最近、どこにいてもここは僕がいていい場所じゃないなと感じてしまう。それが例え親しい友人の輪でも。決して嫌いなわけじゃない。大好きだ。なのにほんとにここにいていいのかと考えてしまう。 僕は、疲れているのか?もう明るいキャラを演じたくない。明日つける予定のネクタイがドアにかかっている。もうやめよう。
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