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運命に背く愛1
ちゅんちゅん
「んっん…」
鳥の鳴き声で少しだけ目が覚めて、体をもぞもぞさせた秋は厚い胸板に顔をぶつけ完全に目を覚ました。こんな都心でも、早朝は鳥の鳴き声がすると知ったのは、この男の家で寝泊まりをするようになってからだ。都心ど真ん中の、ここは、朝はとても静かだ。昼、夜はあんなに、人の気配が絶えないのに、朝は鳥の鳴き声で目を覚ますぐらいの静寂が広がっている。少し目を凝らして辺りを伺うと、まだ夜が明けきっていないようで、部屋は薄暗かった。しかし、室内の物が見えるには十分な明るさで、顔を少し上げると、眠っていても端正な顔立ちがありありとわかる寝顔を見つける。切れ長の目、少し厚めの唇 シャープな輪郭、 すべてが秋の好みだ。いつもは、じっくりと見つめるなんてできないから、秋は思う存分顔を眺める。イケメンは三日で飽きるという俗信があるが、あれは誰が言い出したのだろうか、秋は、この男に飽きたことなんて一度もなかった。飽きるなんてとんでもない。できるなら、彼の顔を死ぬまで近くで見て生きたい。
唇からもれる吐息でさえも愛しいと思うほどだった。安心する温もりに包まれながら眠った日の朝はいつも死ぬかもしれないぐらい幸せだったが同時に秋を苦しめる時間だった。
この人は俺のものではない。こんなに近くにいるのに。どんなに恋い焦がれても、彼の全てを手にいれることなんて出来ないのだ。星は大きな空だから思う存分輝けて、その輝きに皆憧れるのだ。でも、ちっぽけな秋には、彼を輝かせることもできない。しかし、今、この時は、この時だけは、秋の手のひらの中に確かに、存在している。それが、本来の輝きを損なわせるものだったとしても、秋は手からこぼれ落ちていくまでは、しっかりと握っていたかった。秋はそんなことをぐるぐる考えながら愛しいその人の顔を見つめていた。世界で一番好きで好きで好きでたまらない人の腕の中で、相手より先に起きる朝と一人で寂しく起きる朝、どちらが秋にとって辛い朝なんだろうか、そんなことを考えながら目をつぶり、起きるまではせめてと、息を殺しばれないようにその人との距離をそっと詰めた。窓の外の太陽は完全に顔を出し、一日の始まりを明るく照らし始めていた。
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