運命に背く愛1

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 初めて出会ったのは、確か、母が植えたチューリップが、きれいに咲いて、ゆらゆら揺れている季節だ。庭には、たくさんの花が咲いていたが、お母さんと、一緒に種を植えたチューリップが、秋は特にお気に入りで、ずっと見ていても飽きなかった。その日も秋はいつものように庭におり、母が、秋用だと買ってくれた小さい、水色の象のジョーロに水をたくさん入れて、チューリップに水をあげていた。最初は、お母さんもいたのだが、来客だといって、お父さんが呼びにきて、一緒に行ってしまった。秋は、お花の水やりを任されて、うれしくて、一生懸命に水やりを頑張っていた。 「さいた~さいた~つぅーりっぷのはなが~ななんだ~ななんだ~あかしろちいろ」 いつも、一緒にお母さんと一緒に歌う歌を、歌いながら、最後のお花に水をあげて、達成感いっぱいだった。お母さんを呼びに行ってほめてもらおうと、後ろを振り返り、家に入ろうとして、後ろに知らない男の子が立っているのに、初めて気が付いた。 「わ~」 秋は、手に持っていた象さんのジョーロを落とした。そこに立っていたのは、幼いのに、顔の造形が完璧に出来上がっている男の子だった。きりっとした目元には、秋をじっと見つめていた。その男の子は、昨日の夜、お母さんに読んでもらった絵本の王子様にそっくりでキラキラ輝いて見えた。 「だれ…?」 「すまない。ついみとれてしまった。チューリップきれいだね。驚かせるつもりつもりはなかったんだ。続けてくれ」 「えっ?なにを?」 「歌、もう一回聞きたい。」 「えっ?もうおはなにみずあげたたらうたはないのよ」 「それは残念だ。また聞きたいんだけど、どうすればいい?」 「えっとね、あのね、あきね、おかあさんからね、ちらないひととはなしたらだめっていわれてるの」 「ああ、名前をいってなかったな。僕は「あら、こんなところにいたの?」 「おたあさん~」 「あら、一緒だったのね」 知らない綺麗な女の人の後ろから、ゆっくり歩いてくるお母さんの姿が見えて秋は嬉しくて駆け寄っていった。 「秋、今度隣に引っ越してきた、清治くんよ」 「ほら、清治、挨拶して」 「白神清治です。よろしくお願いします」 「まあまあ、しっかりしているのね。偉いわ。ほら、秋。秋もお名前言えるよね?」 「もりちゃあき。よんさい。ほしぐみなの」 「あら~とてもかわいいわ。うちの清治、不愛想で、見た目怖いけど、仲良くしてあげてね。秋ちゃん」 「秋、良かったわね。こんなにかっこいいお兄ちゃんがお隣さんだなんて」 「せいちおにいちゃん」 秋は、清治の水色のシャツを掴んでいた。名前を知ったら、もう知らない人ではない。秋は、大好きなチューリップを誉めてくれたからすぐに清治のことをいい人だと認識し、好きになっていた。清治は、少し驚いた顔をして、すぐにしゃがんで、秋の目線と合わせてくれた。秋は、急に近づいてきた顔にドキドキした。つかんでいた、シャツをさらにぎゅっと握った秋の手を上から優しく握った彼は、 「秋。よろしくな。」 と言って、秋に笑いかけてくれた、清治は、やっぱり、昨日の絵本の王子様みたいにキラキラ輝いて見えたのだった。
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