31人が本棚に入れています
本棚に追加
運命に背く愛2
秋は高2のとき、清治の部屋で突発的なヒートになってしまったことがあった。今まで、幼なじみとはいっても、さすがにヒート前後は、会わないようにしていたし、万が一の事があったらよくないと、日々、抑制剤を秋は飲んでいた。そんななか起きてしまった。あの、暑い日の出来事は、二人をただの幼なじみでいることを許さなかった。完全にヒートになってしまったΩは、薬は効かず、ひたすらただ耐えないといけなかった。ヒートはだいたい一週間続くが、三日目を過ぎたら、薬で、なんとか抑えれるレベルにはなる。ただ、その三日間が、本当に苦しくて、ひたすら自慰をするか、強めの薬を飲んで、軽く気絶するしかなかった。清治は、それを知っているから、秋を、Ωを、αのつとめだろうと抱いてくれたのだろう。でも、彼は、誠実な人だ。抱いたから責任をとるといって聞かなかった。そんな、彼の『誠実』が、秋の心を大きく蝕んでいく。彼が誠実であろうとすればするほど、秋は追い詰められる。でも、秋は、彼の『誠実』を利用してでもいいから、側にいて欲しかったのだ。それが、彼の望みではないとしても。
秋と清治の関係を変えたあの出来事は、かっこよくて頭が良くて優しい隣の家のお兄ちゃんを、自分が違った目で見つめていることに気がついた頃だった。最初はΩの自分が無意識にαを求めているから沸き上がる気持ちかと思った。砂糖に群がるアリのように、αである、清治をΩである本能が求めてしまっているのだろうとやり過ごそうとしたが、秋は気づいてしまった。学校のαの友達にはそんな気持ちを抱かないということに。そう、これは、『Ωの本能』ではなく、秋『自身』が、清治を手に入れたいという欲望を持っていたのだ。秋はそのことに自覚してからは清治に素っ気ない態度をとることを徹底した。どうせなら嫌われてもいいとすら思っていた。これ以上、この気持ちが育ってしまってもどうせ叶わない思いなので辛いだけだし、それならいっそ嫌われたほうが諦めもつくとそう考えたからだ。Ωのくせに、愛嬌もなく、可愛げもないとよく言われる自分と違って、清治はαの中でも特別かっこよかった。毎日誰かに告白されていたと清治の同級生が笑って話してたことはあながち冗談ではないと秋は今でも思っている。かっこよく、身長も187㎝近くあり、実家も裕福、さらに性格もいいときたら世の中の、女子も男子もほっとかないだろう。そんな清治に対して、自分はくせっげで一重で背も低く、ぱっとしせず、もさいということを分かっていたため、叶うはずもない恋心には早々と蓋をしてしまった。せめて、清治の特別になれなくても、幼馴染みという立場からはどうしても離れたくなかった。秋は、ただの幼馴染みの距離を覚え、うまく付き合っていけるような未来が見えるようになって、安心した。幼馴染みという肩書きがなくなってしまったら、秋は側にいられない。秋は、清治を繋ぎ止めることができるものをなにも持っていないのだから。秋は、そう自分に言い聞かせ、平穏に毎日を過ごしていたのに、入道雲が立ち込め、秋の庭のひまわりが太陽に向かって、どんどん伸びていた、あの季節に、2人の関係は変わったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!