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「秋、お前この前のテスト悪かったそうだな。おばさんが泣いてたぞ。」
「なんっ、、お袋のやつ、なんで清治に言うのかな」
清治はアイスティーを2つ載せたお盆を片手にもち、ドアを器用に開けながら入ってきた。カラカラと氷がぶつかる音がして、それだけでこの蒸し暑さがうっすらと和らぐように感じた。季節は夏、外でせみがうるさいくらい大合唱している。いつもはそのセミの声も夏らしくて嫌いではないのだが、なぜか今は無性に鬱陶しいと思ってしまう。秋は朝から少し気分が悪く、体もダルかった。多分夏バテだろうと思い、今日は部屋から出るまいと思っていたが、さきほど、清治から連絡があり、家で勉強を教えてくれると言うので、すぐさま部屋から出て隣の家まで来てしまった。清治に呼ばれただけで、嬉しくて外へ行く元気が湧いてくる自分は単純だなと苦笑いする。大学生と高校生では時間が合わずなかなか会えないため、チャンスは逃したくなかった。恋心には蓋をしたし、嫌われようとか口ではいってるが、やはり普通に好きなのは変わらなかった。恋愛的なアプローチとかはしようと思わないが、会えることが嬉しいのは許してくれと秋は心の中で分からない誰かに言い訳をした。
清治の部屋は広く、いつ来ても、整理整頓され、居心地のいい空間だった。幼い頃から出入りしている場所だったが、いつ頃かだったか。端にある、少し大きめのベットが気になり始めたのは。清治は、あそこで誰かとヤったのだろうか、誰かとヤるのだろうかと、考えると体の奥の何かがうずく。清治が、自分を押し倒してる姿は想像できないのに、誰かを押し倒してる想像は容易にできてしまう。清治の下に横たわる巨乳の美女か、憂いを帯びた美青年が。清治は、優しく、彼女、彼にキスをして、服を脱がせていくのだ。毎回しょうこりもなくそんなことを考えてしまう。清治が、誰かを部屋に連れ込んだのを見たわけでもないのに、想像はすごくリアルにできてしまう。ベットのスプリングが軋む音にあわせて、清治はどんどん高みにのぼっていき、抱いている相手に優しくキスをするのだ。相手もそれにこたえるように、舌をからめ、清治は、優しく目を向けるのだ。それが、自分にだったらどれほど幸せだろうと考えるが、清治に、自分が釣り合うはずもないとわかっているのに、どこかで期待してる自分が嫌になり、秋は落ち込む。また段々気持ち悪さも、朝より増してきて、秋は本格的に気分が悪くなってきた。
(折角、久しぶりに清治と一緒にいられるんだから、たのむ。俺。よくなってくれ。)
秋は少し汗ばんだ額を袖で拭きながら心のなかで必死に呟いた。
そんな秋の様子に清治は目ざとく気づき
「秋、なんか今日変じゃないか?大人しいよな。もしかして具合悪いのか?」
と秋の顔をのぞきこんできた。
いきなり清治に体調の悪さを言い当てられてドキっとした。自分の些細な変化に気がついてくれていたことに対して、学習しない本能が喜び出す。
(俺のことちゃんとみていてくれてるんだ。)
秋はそんなことで嬉しくなってしまう。だけど、全くおくびにも出さず
「別に暑いだけ」
つんと顔をそらし答えた。清治はそんな秋を見て、苦笑しながら、目を細める。
「そんなことないだろ。ほらちょっとこっち見ろ」
清治の大きな手が秋の顔に触れる。
びくっ
その瞬間、体に電流が走ったような感覚が起きる。爪先から頭の先まで、危険だと神経が騒ぎ出す。だめだ、逃げなきゃ。この感覚は嫌というほど覚えがあり、すぐに冷や汗がとまらなくなった。
(やばい、ヒートだ。なんで?周期までまだまだあるのに…)
頭の中はすぐにぐちゃぐちゃになる。さっきまで、にげろと叫んでいた理性なんて早々に脳内から消える。欲しい。目の前のαの性が欲しい。やめろ、だめだ、なにがだめなんだっけ。秋は、頭がまわらなくなっていることに気がついて、とにかく部屋を出て、この姿をどうにかして隠したかった。何が悲しくて、こんな姿をみられなきゃダメなんだ。秋は、涙が溢れてきた。一回発情したら抑制剤は効かないため、ひたすら欲を発散するか、αの性を体に受け入れるかしかなかった。出したい。楽になりたい。もう辛いよ。もう軽く兆している己の性を出そうと本能のままズボンのチャックに手を伸ばす。あぁ、楽になれるんだ。チャックの冷たい金具に指が触れた。その冷たい感触に、秋の理性が少しだけ戻ってきた。はっ、清治の前で何をしようとしてるんだ、おれ、、。すでにチャックを少し下ろしてた手を離し、かろうじて残っている自制心で手の甲を噛む。どんなに噛んでも、溢れてくる欲望を抑えきれない。秋は体の下の一点がどんどん熱くなってきているのを感じた。体の奥に熱がこもる。心なしか、いつものヒートよりひどいような気がした。薬を飲んでないのもあるだろうが、秋にとって絶対的な存在が近くにいるのも要因になっているだろう。早くだれでもいいからαの性を受け入れたくて体がうずく。
どんどん熱に浮かされていく。欲しい。欲しい、俺の奥に、αがほしい。ぐちゃぐちゃに抱いて欲しい。激しく愛して欲しい。もう、なにも考えられなかった。限界はもうそこまできていた。秋は、自分の体のことなのに、ままならないことばかりで、段々涙がにじんできた。
(なんで、清治の前で…よりによって、死んでもみられなくなかったのに)
秋は神様を恨みながら手を噛む力を強めた。手の甲からは既に血が出ており、床にぽたぽたとシミをつくっていた。
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