運命に背く愛2

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「はぁはぁはぁ…」 秋は泣きそうだった。こんな姿一生清治に見せたくなかった。恋人になんて望まないから、清治の前では、一番きれいな自分でいたかった。清治に、こんな汚いΩの性(さが)に溺れる醜い自分なんて、見せたくなかった。神様はなんて残酷だろうと思う。右手の噛み傷が、じくじくと痛む。まだ、秋の中には理性が残っているが、このストッパーが外れるのも時間の問題だろう。早く、一刻も早く一人になりたかった。 「お願いっ 、へやからでてって。おれをみないでっ 」 秋は清治を見るのが怖くてうつむきながら必死に訴えた。清治は、今まで秋の嫌がることは絶対にしなかった。多分、すぐに出ていってくれるだろうと、秋はあと少しで解放されることにほっとした。もう、これ以上、醜態を晒さなくてすむと。それとは裏腹に自分の中の欲望がわめき散らしているのがわかった。なに言ってるの?目の前にはα。しかも極上の。早くセックスしてよ。早くヤってよ。楽にしてよ。秋のなかのΩの悲鳴が、嫌なくらい鮮明に聞こえる。これに魅了されたら最後だ。清治を逆レイプすることになんのためらいも覚えないだろう。嫌がる清治の上に乗ってみっともなく腰を擦り付ける自分が見えて、段々怖くなってくる。なるべく清治から離れようと後ずさる。清治とやった方が、早く楽になれるよ。清治だって、Ωとのセックスは頭ぶっとぶぐらいいいって言うから、俺のこと好きじゃなくてもやってくれるよ。頭のなかで、秋の欲望がわめき散らす。うるさい、うるさい、うるさいっ。秋は必死に抵抗した。部屋の温度がどんどん上がってる気がして、さらに気持ちが悪くなる。目の前の清治は動く気配が全くない。それに対してイライラがたまってくる。なんで、出ていってくれないの?清治のせいでいつもよりヒートがくるしいのに。秋の目から涙がこぼれた。決壊が壊れたように、秋の目からは涙が溢れては頬を流れ落ちる。 「くるしぃからはやくでてって」 段々意識がもうろうとしてくる。もう、なにかも手放したい。秋は、これ以上難しいことは考えられないと、少し理性の手綱を緩めてしまった。緩めてすぐに、頭の中はαを受け入れたいという欲望でいっぱいになる。秋は、清治がこちらに近づいてくる気配を感じ、身をこわばらせた。なんで?どうして?秋は言うこと聞いてくれない清治に悲しくて胸が張り裂けそうになる。いつもは、秋のお願いならなんでも、聞いてくれるのに、一番、一番聞いて欲しい願いは、無視をされそうになっている。段々迫ってくる清治から逃げるように後ずさる。わけがわからなくなり、また涙があふれてくる 「こないでってばぁ~」 顔は涙でぐちゃぐちゃだった。がんっと何かに腰をぶつかる。後ろにもうこれ以上下がれない。どうすることもできずに、秋はただ項垂れた。 清治の反応がないのがただ怖かった。多分蔑まれてるだろうことだけは分かり、このまま意識を失い、二度と目が覚めなければいいのになんてバカなことを考えてしまう。なにも抵抗しなくなった秋をみて、清治は黙って座り込み、涙で濡れた秋の頬っぺたを自分の袖で拭いた。秋は何をされているかよくわからず、なされるがままにされていた。上品でどこか色っぽい清治の匂いが鼻をくすぐる。いつもの清治の匂いだった。それだけで体の熱が、数度上がった気がして、落ち着かない。体の最奥が、ぐちゃりと濡れた気がした。秋は、精神力の限界を迎え、本当に意識を失いそうになっていた。もういいや、どうにでもなれ。清治に軽蔑されただろうが、もういいんだ。自分の体なのに、自分の力でどうにもならないこの体を捨てたくてたまらない。秋が全てをあきらめて目を瞑ると 「すまない」 「えっ」 耳元で小さく何かを呟かれ、秋は清治に顎をつかまれた。 「んんっん」 秋の唇に温かいものが触れる。 キスされてるっ?秋は目を大きく見開いていた。目を開けると、清治の顔が、すぐ目の前にあり、夢でも妄想でもらないことがわかる。とっさに目をつぶると、唇が少しずれてしまったのだが、清治は、逃がさないというように、頭の後ろに手をまわしてくる。 (キスするときって、顔がこんなに近くになるんだ) 秋は、よくわからないところに感動してしまった。夢にまでみたキス、絶対にするはずがないと思っていたため、その甘さに、中毒性に秋はずるずるとほどけていった。こんな夢見たくない。そう思うのに、嬉しくなってしまうのはしかたがないと思う。だって、ずっと触れて欲しかったのだから。長い長い触れるだけのキスが終わるころには、秋は目がとろんとしていた。 「秋、抱いたほうが楽になるから俺に任せてもらってもいいか?」 切羽っつまったような声で、清治は耳許にそう囁いてきた。清治が俺を抱く?あり得ない状況に、秋は、頭がついていってなかった。なのに、清治は、そんな秋には構わず、長い指で、秋の唇を性的な動きでなぞっていく。 「あっ」 それだけで期待をして腰が揺れてしまう自分が恥ずかしくて秋の目からぼろぼろ涙がこぼれる。抱くという言葉に簡単に反応して秋の小ぶりな性器がピクリと反応しているのがわかる。股を必死に閉じようとしたが、全く力が入らない。清治は、相変わらずなにを考えているのかわからない。そうだ、もうこのまま抱かれたほうが楽になれるし、いいんじゃないかな?秋はぼんやりと天井のライトを見ながらそんなことを思う。セックスどころかキスさえも清治とは一生することがないと思ってたんだから、これは逆にチャンスじゃないのかとさえ思う自分がいた。どうせ叶わない恋ならば、体の関係を一回だけでももてたのなら嬉しいことなのではないか?そう考えてまた心が勝手に痛みだす。そうだ。これを思い出にして、この思いを完全にたちきろう、秋はそう決心した。潔く決意をした、はずなのに心は血の涙を流しているように悲鳴をあげていたが気づかないふりをした。 「頼む…………」 秋は目を閉じ、清治から、顔を背け小声でそう呟いた。清治が軽く頷く気配がして、次の瞬間、体が宙に浮いていた。 「わっ」 そのまま、いつも気になっていた清治のベットに寝かせられる。いつもの清治の匂いが秋の体を包み込む。その匂いのせいで、清治に抱き締められているような気分になり、体が期待をして火照ってくる。秋は清治がどんな表情で秋を見ているのか怖くて、目を開けられなかったが、これからの期待で秋の性器は触っていもいないのに完全に勃ちあがっていることだけは分かりまた泣きそうになった。 清治の指は、まるで愛しいものを扱うかのように秋の頬を撫で、次に感じたのはさっきと同じ唇の温かさだった。秋は、また清治にキスをされた。びっくりして開けた唇に舌が割り入ってくる。清治は探しあてた秋の舌と自分の舌を絡めてきた。さっきのとは違い官能的なキスに秋は最後の自制心が消えていくのがわかった。 「んんっ…… ふ………っ 」 キスされながらあくまで優しく、清治に服を脱がされていた秋はもう気持ちよくなることしか頭になかった。これから、幸せで、楽になれるはずなのに、なぜか心は氷のように冷たくて、冷たくなっていた。頬に冷たいものが一筋流れていったのを最後に、完全に秋は与えられる快楽に溺れていった。
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