二人目の客

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二人目の客

 しずかな雨が降る、木曜日の午後二時。  コーヒーショップのカウンター席には、開襟シャツを腕まくりしてラップトップをたたく紳士風情の客が一人。  はやりの店ではない。創業五十年、自家焙煎の珈琲豆を卸すかたわら、コーヒーショップを営んでいる。純喫茶といった趣だが、メニューはコーヒーのみ。年若い店主は二代目である。 「…落ち着かない」  つぶやかれた客の言葉に、店主はレコードへ伸ばしかけた手を引っ込めた。先代から引き継いだ膨大なレコードの試し聞きをするため、次々と取り替えていたのだ。 「申し訳ございません」 「手持ち無沙汰なら、僕の小説でも読んではどうだい」 「本を読むと眠くなってしまうもので…」  客は不可解と言いたげな表情を店主へ向ける。 「…作家先生には信じられないかもしれませんが、そういう人間もいます」 「残念なことだ」  店主は曖昧な微笑みで応える。 「そうだ、暇ならひとつ賭けをしよう」 「賭け、ですか」 「なにがいいかな…次に来る客の性別、とか」 「それで賭けになりますか?男性に決まっていますよ」  店主の言い分はもっともで、趣はあるかもしれないが華やかさの欠けるこの店では、客の九割が男である。 「いいとも、それなら僕は女性に賭けよう」 「賭けはいいですが、一体なにを賭けるんです?」 「コーヒーを一杯」
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