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「わかりました。お代わりができるといいですね、だれも来ない可能性も…」
言ったそばからドアが開く。入店してきた女に、店主と作家は目配せをした。賭けはあっさりと作家の勝ちで決着がついた。
「いらっしゃいませ、空いているお席へどうぞ」
女は店内を見回し入ってきたドアに一番近いカウンター席へ腰をおろした。カウンターの奥を陣取っている作家との間は五席分である。
「メニューはコーヒーだけですが、よろしいですか?」
お冷とおしぼりを置きながら店主が尋ねると、女は短く「ええ」と答え、それからきれいな爪でメニューを指差した。かすかに雨の湿気を含んだ甘い香りが漂う。
「承知しました」
珍しい客だな、と店主は思った。もちろん、この店にしてはという意味だ。
目鼻立ちのはっきりした顔、ゆるくまとめられた明るい色の髪、Tシャツにデニムというシンプルな服装に細いヒールのサンダルと大振りの耳飾り。美女という形容で間違いない容姿だ。
店主が美女と作家のコーヒーを用意していると、再びドアが開いた。今度は男だった。
「いらっしゃいませ」
空いている席へ、と言わなかったのは美女と知り合いの様子だったから。おどおどしながら、「よ、呼び出してごめん」と男は言って美女のとなりに座る。
「この店、コーヒーしかないそうよ」
「きみはもう注文したの?」
「ええ」
「じゃあ…」
男はメニューを見たが、選ぶのが面倒になったのかすぐに「彼女と同じものを」と店主に注文した。
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