探しものは宝物

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探しものは宝物

「ワシが若い頃はのぉ。それはそれはスゴかったもんじゃ。ありゃあ、何年くらい前じゃったか…」  うららかな陽気のポンボルーナルーン。町はずれにある黒猫魔法ギルド ポンボン支店。  店主・リーザヴェートの手元に夢幻晶珠(エターナル・グローブ)が戻り、営業を再開した。 「ここの南東に流れる、エルメス川の川底には不思議な溜まりがあったんじゃ。流されたものが溜まってしまう溜まりが…」  長い眉毛で眼が覆われた、白髪のお爺さんが、ポンボン支店の応接用のソファーに座っている。向かい合うソファーにはソーマとクライヴが座り、お爺さんの話を聞いていた。  アンネは脚立に乗って、デスク周りを整理整頓。ミゲールは錬金術の書物を読み、バネッサは水晶玉で何かを見ている。ベガは専用の小さなソファーで毛づくろい中だ。  あれ? 店主は⁇ 「また来てんのか、おじい」  二階から降りてきたネロが、呆れたように言う。 「せやな。また来とるわ。ここの常連さん第一号やからな」 「町の役所で聞いたが、おじい、毎日役所に通って、こんな風に役人相手に延々と長話してたんだとよ。ついたあだ名が話術の王(ストーリー・ロード)。役所も参ってしまって、家族に話して必要な用事の時以外は出禁だとさ」 「あの風格は、ある意味王やな」 「まったく、恐れ入るぜ」  開店営業している黒猫魔法ギルド ポンボン支店。今日は朝から常連さんの、ヨハネお爺さんが来店。ためになるような、ならないような。有難いお話しを今日も聞かせてくれる。  って単なる暇つぶしじゃねえかとか言ってはいけない。ただでさえ、町民からの信頼値が低い黒猫魔法ギルド ポンボン支店は、こんな長話おじいですら、邪険にして追い返すのは、いらぬ風評を招く結果となるのだ。  カランカラン。  店の扉にかけられているベルが鳴った。なんと、本日第二のお客様⁉︎ 毎日暇を持て余す黒猫魔法ギルド ポンボン支店に、お客様が来店中にまたお客様が来るなんて…。  明日、世界が滅びるのだろう。そうに違いない。 「いらっしゃいませ!」  元気よくアンネが声を出す。まさかの来客に驚いたのか、思わず全員が扉の方に視線を送る。  扉は半分開いた状態だ。扉からこれまた半分顔を出して、ギルドの中を覗く顔がある。じーっと、ギルド内の様子を窺っている。全体像が把握できないが、小さい女の子だ。 「いらっしゃいませ! どうしましたか?」  女の子より、少し背が高いアンネが対応する。女の子は一瞬ビクッと身体を震わせ、今度はアンネをじーっと見つめた。 「まほー…」 「え⁇」 「まほー、使えるの?」  恐る恐るみたいな感じで、女の子がアンネに尋ねる。 「はい!黒猫魔法ギルドの魔法使いは、皆魔法が使えますよ!」  まだ半信半疑なのか、それとも怖がっているのか。女の子は半開きの扉に身体を隠している。 「なにか、御用ですか?」  首を傾げて、アンネが訊く。女の子の視線は、じっとある一点に注がれている。その一点。時おりピクピクと動く、アンネの猫耳。 「猫さんのお耳。可愛い」  女の子の率直な意見に、アンネは思わず顔を赤らめた。コッビトと獣人(ライカン)のハーフ。その容姿は必ずしも受け容れられてきたものではない。それを素直に褒められたら、照れてしまうというものだ。ああ、マイナスイオンが出てる…。 「にゃ~」  ベガがアンネの隣に座った。にゃ~って、普通の猫演じてるよ、こいつ。まあ、普通の猫は喋らないから当然といえば当然である。 「猫さ~ん」  猫好きなのか。女の子はベガに近寄ってきた。ついに半開きの扉からその姿を表した。シャンタン色の腰まで伸びた髪。眼はまんまるで鼻は小さい。とてもキュートな顔立ちだ。レザー調のドレスを着ていて、髪にはリボンを付けている。わりと育ちの良さ気な女の子だ。 「ベガって言うんですよ」  アンネが話しかけると、女の子はぎこちないながらも、にこりと笑った。じっとベガを見つめる。ベガは女の子の匂いを嗅ぐように、スンスンと鼻を鳴らしたかと思うと、女の子の頬をペロッと舐めた。この動作、なかなかあざとい。猫のなんたるかを心得ている。まあ猫なんだけれども。 「アンネ君。よかったら中へ入ってもらいなさい」  気を利かせたミゲールが、誘導するように手を差し出した。この人、一応こういう対応ができるらしい。仮にも副店長である。見直してやってください。  アンネとミゲールに促されて、女の子が一歩、足を踏み出す。まだ警戒しているのか、少し動きがぎこちない。そんな女の子の警戒を解くかのように、ベガが女の子の足にすり寄った。警戒心が解けたのか、女の子はベガを見て笑うと、応接セットに歩いていく。 「私はアンネと言います。あなたのお名前は?」  さりげにアンネが名前を尋ねる。まだ少しだけ緊張しているが、女の子はアンネに対しては、心を許しているようだ。にこりと、アンネに笑みを向けた。 「リタ」  リタが応接セットのソファーに座ると、緊張を和らげようというのだろう。ベガがリタの膝に乗って座った。あざとい猫である。  黒猫魔法ギルド ポンボン支店。今日は常連のヨハネお爺さんに加えて、小さな小さなお客様がご来店。  ギルドの外では、今日も今日とて、ピューチェ鳥が鳴いている。  陽は中天にかかります。ヨハネお爺さんは、まだ帰らず。  
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