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狼のロウ
「トカプチどうした?また故郷のことを考えていたのか」
「いや……それより、もう乳はいいのか」
「あぁ今日はもう満足した。さぁお前も疲れただろう。食事を取れ」
ロウが指差す方向を見れば、どこで入手したのか、野菜スープや焼いたベーコンなど人間の食事らしい物が、岩のテーブルにきちんと並んでいた。
「ロウ、またこんなものを……一体いつもどこで手に入れている?」
「いいから早く食え」
よくよく見れば、ロウの毛で覆われていない胴体部分には無数の擦り傷がついていた。
もしかして俺のために?
俺の食べ物を得るために、怪我をしたのか。
そんなのは……何だか切ない気持になってしまうだろう。
オーロラ色の氷の毛並みを持つ獣人のロウ。その瞳は水色の水晶のように透明で、毛は光り輝き美しく逞しい獣だった。
出会った時は、ただの獰猛な狼にしか見えず、恐怖に震えあがったが、共に暮らすようになり考えが変わってきた。
お前は仕草は相変わらず乱暴だが、獰猛な見た目とは裏腹に、とても澄んだ優しい心を持っている。あの日食べ物を求めて俺の住む土地へ紛れ込んだ弱った狼のお前と出逢わなければ、こんなことにならなかったと、最初は後悔した。
でも……最近では、お前と逢えて良かったとさえ思うよ。乳が出るオメガだと悟られないよう必死に隠し生きていた土地から、俺を強引に攫ってくれたことを感謝したい程にな。
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