運命の日

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運命の日

 俺とロウの衝撃の出逢い。それは十六歳の誕生日の早朝のことだった。  寝ているうちに胸から乳が大量に漏れたらしく、胸のさらしがぐっしょり濡れて気持ち悪かった。だから誰にも見つからないよう森の奥にある小川で服を脱ぎ、躰をこっそり洗っていた。 「参ったな……こんなに濡れてしまうなんて。もう……これ以上隠し通せないかも。もうここにはいられないかも……」  絶望にまみれ肩を落としていると、突然背後の茂みが大きく揺れた。次の瞬間には目の前に大きな狼が飛び込んで来ていた。それが獣人のロウだった。狼の顔に人間の胴体、手先と足先と尻尾は狼そのもの。そんな異様な姿に心臓が止まりそうだった。  ロウは俺を獣の手でいきなり押し倒し、跨り、胸元に食らいついて来た。 「うわぁ!何をする!どけっ!どけよ!」  食べられてしまうのか!  殺されるのか!  そのまま肉を食いちぎられるかと思い、恐怖で目をギュッと瞑った。でも何故か痛みはやって来ず、そっと目を開けると獣人が俺の乳首に無心に吸いついていた。味わったことのない未知の感触だった。胸を吸われるとはこのような感覚なのか! 「うわぁ、やめろ!……あっ……んっ……」  ドクン──  初めて他人に胸を吸われた。  今まで溜まったものが苦しくなると自らの手で揉み出さなくてはいけなくて、その痛みに泣きそうになっていたのに。不覚にも突然現れた獣人によって、チュウチュウと吸われたのが気持ちいいなんて……なんで……こんな風に想うなんて、俺、最低だ! 「やっやめろ!離せっ」 「お前のこの匂い、この乳の味……さてはオメガだな。俺はアルファだ。丁度いい、連れて行くぞ」 「なっ!冗談だろ?」 「行くぞ」  そのまま獣人の肩に軽々と担ぎ上げられてしまった。あまりの強引さに一瞬呆気に取られたが、すぐに手足をバタバタ動かし必死に抵抗した。 「嫌だっ!父さんーっ母さん!」  どんなに暴れてもびくともしない。全く敵わない。  獣人は俺を抱えあげたまま、一気に暗い森を突っ走った。彼はさっきまでふらふらで息も絶え絶えたったのに……今は精気が漲っている。これは一体どうしたことか。  拉致されるような形で、俺は生まれ育った大地を突然去ることになってしまった。  
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