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日曜日、二人は上野公園を歩いていた。
「ここは美術館、動物園と見所はいろいろあるんだけど、佐倉はどこに行きたい?」
奈々子は少し考えて答える。
「動物園がいいかな……」
「やっぱりパンダが見たいとか?」
倉科がニヤニヤしながら言うので、
「倉科さん、私のこと子どもっぽいって思ってるでしょ?」
少しムッとして言い返す。
「いや、佐倉ってそういう素直なところが可愛いなあと思って。実は僕も人のことは言えないんだ。地方の動物園ではパンダは見られないから、今日こそはって張り切っている」
倉科によると、日本の動物園でパンダが見られるのは東京は上野動物園、近畿地方だと二カ所しかないのだそうだ。
動物園に入ると、数年前にパンダの子どもが生まれたこともあり、パンダを見るには列に並んで待たなくてはならなかった。幸い、その日は三十分も待てば目当てのパンダを見ることができた。
「パンダ、やっぱり可愛かった!倉科さん、人生初の生パンダを観た感想は?」
からかうように奈々子が言うと、
「初めての生パンダに感動しました……なんて言うわけないだろ。でも、コロコロしていて可愛いかったな。」
二人は打ち解けた様子で、園内を見て回る。ゴリラ、トラ、熊、アザラシ、鳥類等いろいろな動物を一通り見たので、ベンチに座って一休みする。目の前を通り過ぎる家族連れを見ながら奈々子が呟く。
「動物園って、やっぱり家族連れが多いですね。こういう所に来る家族って、幸せそう。いつかあんな風になれたらいいな……」
しばらく黙っていた倉科が話す。
「佐倉はきっと優しいお母さんになるよ」
そう言って、奈々子の肩をぽんと叩いた。
「何か飲み物買ってくるよ」
そう言うと自販機に向かって歩いて行った。
倉科はその日は、公園内をいろいろ散策しようと考えていたのだが、二人とも動物園を歩き回るだけで疲れてしまったので、お茶を飲んで帰路に着いた。
奈々子が倉科と始めた模擬デートは二回、その前のドライブを入れれば三回を数える。回を重ねるうちに、倉科の仕事で見せる顔とは違う気さくな一面も見えて、次第に打ち解けてきた。でも、奈々子の中で、倉科の存在をどう捉えて良いか迷いも生じている。友達というには親密な、でも恋人のふりをしているだけの関係。二ヶ月が過ぎた時、二人の関係はどうなっているのだろうか。
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