First Date

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First Date

 奈々子は、仕事上、事務処理や電話連絡等で倉科のサポートをする機会はあるのだが、年齢が少し離れていることもあって、それほど親しく話をする機会はない。メガネをかけているので知的な雰囲気があり、仕事も良くできる先輩という印象だが、同期の男子たちがよく相談に乗ってもらっているという話をしていたので、面倒見のよい人だとは思っていた。 奈々子にしてみれば、泣き顔をみられてしまった倉科と顔を合わせるのは気まずさしきりなのだ。断ろうか、どうしようと悩んでいるうちに、気がつけば日曜がきてしまった。今更断りの電話をかけるのも失礼だから、覚悟を決める。行き先もわからないが、とりあえず、夏らしいストライプのワンピースを着て家の前に出た。すると、路肩に黒いセダンの車が停まっていた。  「おはよう。どうぞ、乗って」  ドアを内側から開けられ、奈々子は助手席に座る。いつもカチッとしたスーツ姿の倉科しか見たことはなかったので、ポロシャツとチノパンツというカジュアルな服装の倉科は新鮮だ。 「おはようございます。今日はどこへ行くんですか。倉科さんの行きたいところって……」 「たまの休みだから、ドライブでもしたいなって。車も週に一回くらいは走らせないとね」  車は都内の混雑を抜けると、スムーズに進み出した。車内では、FMの音楽番組が流れている。  最近流行の女性シンガーの歌が流れ出すと、奈々子が一緒に口ずさむ。 「その曲、好きなの?」  どうやら無意識に口ずさんでいたらしく、彼女は頬を赤らめながら言う。 「あ……、すいません。私、好きな曲だと鼻歌を歌ってしまうみたいで……」  奈々子の意外な一面を見た気がして、倉科がクスッと笑う。 「歌ってくれて構わないよ。その曲僕も好きだから」  二人とも、なんとなく当たらず触らずな話を交わしているうちに、車は海浜公園の駐車場に入る。二人は車を降りて、海岸に向かって歩き出す。
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