First Date

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 店を出たのはお昼過ぎだった。車で都内へ戻る間、往きの車内よりはいくらか打ち解けた雰囲気で言葉をかわす。それによると、奈々子は学生時代は親元から都内の大学へ通っていたが、就職するにあたり、通勤時間がかかるため、一人暮らしを始めたという。三人兄弟の末っ子ということもあり、家族は大反対だったが、家族といればどこまでも甘やかされてしまうので、なんとか家族を説き伏せたのだという。 「一人暮らしをしてみての感想は?」  しばらく考えた末に彼女は言う。 「自分のお給料の中で、やりくりしないといけないのが大変なこともあるけど、自由にできるのは楽しいです。でも、落ち込んだ時に一人なのはつらいこともあるかな……」  一瞬気まずそうな顔をして、言い直す。 「一人暮らしは気に入っています。仕事が早く終わるときは、お気に入りの映画を見たり気ままに過ごせるし」  話をしているうちに、車は奈々子のアパートに着く。 「あの、今日はありがとうございました」 「どういたしまして。次は君がどこに行きたいか、何をしたいか、また連絡して。君の電話番号は?」  奈々子から電話をかけてワン切りする。 「ありがとう。じゃあ、また会社で」  そう言って、倉科は車を走らせた。その姿を奈々子は佇んで見送っていた。  自室に戻って奈々子は物思いに耽っていた。倉科はなぜ模擬デートだなんて奇妙な提案をしてきたのだろう……原田の事で、泣いたり落ち込んだりしている自分を元気づけようとしてくれる倉科は、おそらく優しい人だと思う。でも、それ以上に自分に関わろうとする真意がわからない。明日からどんな風に顔を合わせたらいいのだろうと考えあぐねていた。
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