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「じゃあ、山中さん。夜も更けてきたんで、お開きって事でいいですか」
「いや別にお開きって言っても、自分はどこにも行きませんよ」
「ずっといるんですか、ここに」
「そりゃそうですよ。どこに行くんですか。八十年もここにいるのに」
「聞きますけど、俺の事ずっと見てたんですか」
「別に見たいわけじゃないけど。死人なんてそう生きた人に興味ないですよ」
「そうですか。最後に聞きますけど。死ぬ時はやっぱり苦しいんでしょうね」
「苦しみですか。いや~覚えてないです。心配しなくても大丈夫ですよ。苦しいなんて、後で思い出すから苦しいんであって、何も覚えてなかったら苦しみなんて無いようなもんですよ」
「へえ、そんなモンなんですね。死んで淋しくなかったですか。たとえば家族と別れるわけですから」
「ハハハ別れるなんてほんの一時ですよ。淋しいなんて思う間も無いですよ。すぐに皆んなこっちに来ますからね」
「はあ一時ですか」
「そうです。だからオタクも苦しいとか淋しいとか、死ぬ前から心配しなくてもいいんですよ。皆、あんじょう死ねますから」
幽霊の山中さんの真実味のある言葉はなかなか頼もしいものだった。さあいよいよ帰ってもらおう。いや正確には消えてもらおう。
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