戻らなかった初恋

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戻らなかった初恋

 駅から学校までは下り坂の細い道になっている。  ここは僕が中学高校の六年間……青春と共に通り過ぎた懐かしい通学路。  今は道の両端に紫陽花が見事に咲き、雨に打たれしっとりと濡れている。  大株の紫陽花が道にせり出しているので、傘があたる度に透明の雫があちこちに飛んで、服を濡らしてしまう。  もう梅雨入りか……この季節になると決まって思い出すことがある。  ずぶ濡れの僕を優しく抱いてくれた人のことを。  僕を通り過ぎて行ったあの日の熱を。  吹き抜けたまま戻らなかった初恋を。  
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