後悔の念

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後悔の念

 僕の方から先生に抱きついた。 「いいのか」  コクンと頷くと先生に囁かれ逞しい胸元にぎゅっと抱きしめられた。全部僕が望んだ事だった。 「先生……」 「静かに、今はその名で呼ぶな」  そのまま優しく顎を掴まれ、もう一度唇を重ねてもらう。    「僕は……先生に抱いてもらえたら頑張れる」 「そうなのか」 「手術で万が一のことがあったら、僕は何も知らないまま逝くことに……」 「そんなこと言うな!必ず成功するから!」 「でも怖い……」 「水嶋、俺が勇気づけてやるから頑張って来い」    そのまま先生のベッドに押し倒され、借りた部屋着の中に手を差し込まれ胸元をまさぐられた。 「あっ……」  この感触。触れてもらった所にパワーが宿るようで心地いい。 「先生……先生が触れてくれた所、気持ちいい」 「そんな風に言うな。俺は教師としてあるまじき行為をしているのに」 「誰にも言わない。ふたりだけの秘密にする」 「くそっ、なんで……こんなにもお前は魅力的なんだ。お前の心臓はちゃんと生きている!」  たくし上げられ露わにされた胸の突起にチュッと口づけされた。特に左胸を丹念に舐められると、心臓の鼓動が益々早くなりドクドクと音が聞こえる程だ。 「先生……僕の心臓……ちゃんと動いている!」  手術を翌週に控えているので、身体に負担になるような運動は絶対に控えるよう担当医師からきつく言われていたのに、もう止められない欲情だった。  先生は僕の身体を気遣いながら情熱的に抱いてくれた。  先生が僕の身体に息吹を注ぐ。  生命の熱が吹き抜けていく。  脚を開かれ腰を抱え上げられ、上下に揺さぶられた。  仰向けの姿勢で先生のことを見上げると、先生は陸上部の生徒と並走する時みたいに、うっすら汗を浮かべ気持ち良さげな表情を浮かべていた。 「あっ……うっ……」  男の僕の身体に確かに欲情してくれた事が嬉しくて、初めての結合の痛みよりも嬉しさが勝り涙を零した。 「あっ……あぁ」 「水嶋っ!」  しかし僕を抱いた後……先生は正気に戻ると後悔に塗れてしまった。 「すまない……俺は教え子に何て恐ろしいことを」  聞きたくない……そんな後悔の念。  僕が先生に抱かれたのは結局その一夜、たった一度のことだった。  手術後、体調が落ち着いた頃に、先生は病室に無精髭を生やしたままやってきて土下座した。 「すまない。あの晩お前を抱いたのは一時の気の迷いだった。手術前で不安がる水嶋を励ましたい一心で、あんなことをしてしまった。申し訳なかった。どうか……なかったことにしてくれないか」 「……なかったこと?」  僕は先生にまた抱かれたくて手術を頑張ったのに、先生の方はただの同情で僕を抱いたのだと知ると、怒りを通り超し虚しい境地だ。  残りの高校生活は最悪だった。  結局、僕はショックで浪人生活に突入し、その間に先生は大学時代から付き合っていた彼女と結婚したと風の便りで聞いた。
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