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それから10年経った、智紀は大人になった。毎日日雇いのきつい現場に派遣されている。
もう死んでしまいたかった。決して仕事がきついとか今だに少年院の精神科の先生に世話になってるからというわけではない。
守ってくれたと思った少年法では実は罪を償えないということに気がついてしまったからだ。殺人を犯しても少年法では服役はないため罪を償えない。その実感がいつまでも胸の奥にこびりついて離れない。
結局のところ社会も自分の、人間としての尊厳は守ってはくれなかった。
中央線快速のホームに立つとクリスマスを控えた街がキラキラ光っていた。
最後の景色は妙に眩しくて冷たかった。
間も無く列車が通過することをホームのアナウンスが伝える。
智紀はこの地獄から飛び降りる決意を固めた。
ホームの端に列車が滑り込んでくる。白線をまたいで、膝から崩れ落ちるように線路に身を投げた。後ろからは悲鳴が聞こえた。
快速電車が汽笛を上げた瞬間だった。
薄れていく意識の中で智紀にはブツッとまるで音楽プレイヤーから突然イヤフォンを抜いたような音が聞こえた。そして視界が暗転した。
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