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ひどい耳鳴りがして意識を取り戻したときには両手両足を枷で繋ぎとめられていた。
目の前には鉄格子が見えた、智紀は横たわった状態で辺りを見渡す。背中のすぐ後ろには煉瓦造りの壁、そして低い天井には切れかけなのか点滅する電球が一つぶら下がっている。手枷が当たっている場所が内出血していて鈍い痛みを脳に伝えている。
どれほどの時間ここにいたのだろう。そしてここは何処なのだろうかと考える。
確か俺は電車に飛び込んだはずだがと智紀は回らない頭で考える。
それからどれくらい経っただろうか
「目を覚ましたようね」
突然電波が上手く入らないラジオのような声がこだまする。女の声だ。
何処からだ、智紀は鉄格子まで枷を鳴らしながら這って行った。
鉄格子に手をかけ隙間からなんとか外の通路を見渡したが誰もいない。
「貴方は現実を現実として正しく認識していると言えるかしら?」
ざざっと音が波打つ。
「誰だどこにいる」
智紀は声を震わせながら言った。
「しっかり答えることが貴方のためだと思うわ、それなら質問を解りやすく変えましょう貴方は貴方自身が作り出している幻想や夢を現実だと捉えている感覚に陥ったことはない?」
今度はしっかり聞き取れた。若い女の声だった。
「はやく放せ、警察に連絡するぞ」
あはははと女の声は高笑いする。
「貴方から尊厳を奪った警察に?」
音はどんどんクリアになっていく。
「隠れていないで出てこい!!」
「隠れてなどいないし、むしろ貴方に一番近いところにいるわ」
不安はだんだんと智紀の中で確信に変わっていく。
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