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「目を覚ましたかナンバー32」
男の声が冷たい口調で言う。
直後、絶叫、言葉にならない叫び声が聞こえた。いやこの叫びは俺自身のものなのか、視界は左右にぐるんぐるんと回転する。どうやら首しか動かない状態で仰向けで拘束されているようだ。声の主はおそらくサラのものだ。俺は本当に彼女の記憶を見ている、いや体験しているようだと智紀は感じた。
猿ぐつわをされているのか声は出しているほど響かない。
男はすぐ右に立って智紀、いやナンバー32を見下ろしていた。白いマスクをつけていて表情はわからなかったが、その視線は人間ではなく興味のないモノでも見るかのようだった。
「ストレッサー投薬実験はまた失敗だ」
そう独り言のように言うと壁に備え付けてあった受話器のようなもので誰かと会話を始める。
「ナンバー32はストレッサー投薬で拒否反応は出たもののまだ時間がかかりそうだ、ああ、そっちはどうなっている、なんだと!?ナンバー31についに反応が出たか!!」
すぐそちらへ行く、そう言って受話器をおいてこちらには一瞥もくれず足早に重たそうな扉から出て行った。
「お姉ちゃん」
猿ぐつわのせいでうまく発音できていなかったが記憶の中のサラはそう言って涙を流した。
そこからの記憶は少し早送りのように見えた、拘束された両手両足のばたつきがまるで痙攣でも起こしているように見えたし、心拍計が凄まじい勢いで点滅していた。
しばらくしてようやく時間の経過速度が戻ってきた時だった。
じりりりりりりっとどこからともなく火災報知器のような音と多くの人の悲鳴が聞こえた。青い炎が分厚い扉を焼いて炎の渦が部屋に入って来たのはそれから数瞬の出来事であった。
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