またのお越しを

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 ぴきん、と二人して固まって、ギギギと音が鳴りそうな首を動かす。  見上げる私と見下ろす彼。視線が合うまでの距離、身長差のみの約二十センチ。  近い。  そしてやっぱり背が高い。平均身長よりやや下とはいえ、六センチヒールの私がこんなに見上げるなんて。   「……あ、あの、これは」  頭のすぐ上で響く動揺しまくりの声に現実に戻り、逃避のように自分の行動を分析してみるに……ええと、はい、これはどういう事でしょう。  側から見たら恋人同士が抱き合うような構図ですが、さては、昔の事なんかぼんやり思い出していたから、思わず当時の呼び名に反射的に足が動いてしまったとかそういう感じ?   っていうか、あれっ? 「っ、ああ、ご、ごめんなさいっ、呼ばれたからつい!」 「え?」 「え?」  え、呼んでない。呼ばれてない。  あ、そう、そうだよね! 名前とかお互い伝えていないし!  慌てて真上を向いていた顔をばっと横に向けたらゴキッと鳴った……首、痛ぁ。  落ち着け、落ち着け私。まず確認すべきは。 「あ、あの、『チャコ』って」 「猫の、名前ですが」 「ああぁ……、あの、()()()」 「え?」  もう、どうしよう恥ずかしい!  言い訳にしか聞こえないだろうけど、でもっ。 「えっと、千耶子(ちやこ)、っていうんです、私。それで、小さい頃からチーちゃんとか、チャコ、って呼ばれてて……自分が呼ばれたのかと。す、すみません」  恐ろしく赤くなっているだろう顔をあげれば、きっといい勝負だろうほどに戸惑って赤面している人と目が合う。  ものすごい至近距離にいることにようやくハッとして、彼はぶんっと音が出る勢いで私を囲うように出したままだった両手を上にあげた。見事な万歳ポーズだ。  触れていたわけではないのに離れた体温に寂しくなるなんて、どういうことだろう。
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