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「なんてお店なんですか?」
「駅からちょっと入ったところでね、昼間は喫茶店で夜はレストランになるの」
――そこは、もしかして。
「……漆喰壁で、サンルームとチェリー材のカウンターがあって、猫がいる……?」
「なんだ、知ってた? ふふ、そう、そこ」
来て早々あの店に目をつけるとは見所がある、と褒められて手のひらに飴をのせられた……幸子さんにまで子ども扱いだ。いいけど。
「楽しみです。夜はまだ行ったことがないので」
「メニューがね、あってないようなものなの。今日のお魚は何かなぁ」
その日の仕入れで夜のメニューが変わるらしい。
昼間行った時の雰囲気からは洋食屋さんかと思ったら、夜はパスタから散らし寿司までなんでもアリなそう。
こんなのが食べたい、と言えば材料さえあれば作ってもくれるそうで、凄いなそれ。
そんなんだから毎日通う人も多いと言われて、そりゃそうだと納得だ。一人暮らしのためにあるような店じゃないか。
「ウチの息子の同級生が店長してるんだけど。腕のいい子よ、ちょっと顔が怖くて取っつきにくいけど」
笑って言う幸子さんのその言葉に、目の前に迫ったコックコートを思い出して心臓が跳ねる。
うわ、やばい、今、仕事中っ。
「ん、大丈夫? 重かった?」
「あ、あはは、大丈夫です。ちょっと手が滑りました、はい」
持っていたサンプルカタログを取り落とした私は、拾いながら息を整えた。
……本気でヤバイかもしれない。
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